「恋湊博多諷(こいみなと・はかたのひとふし)~毛剃(けぞり)」
幕があくと、そこには一面の海。花道にまで青々とした海。
歌舞伎座が青く染まっている。
内側の幕が切って落とされると、そこには船。
細かく描かれた白波が、いよいよ写実的。
床と背景に海の「絵」があるだけなのに、
広々とした開放感と奥行きが感じられる。
なんて大胆な舞台美術なんだろう。
船の上には毛剃九右衛門(團十郎)とその配下のもの。
船に乗り合わせた商人の宗七(藤十郎)を交えて酒を酌み交わすが、
その宗七が懇意にする博多の傾城・小女郎(菊之助)を
実は九右衛門も懇意にしていたことがわかり、
急に物別れ。
その上、毛剃は抜け荷(密貿易)でかせぐ、いわゆる海賊だった!
宗七も海に落とされてしまうが、
九死に一生を得て博多へと生還し、尾羽うち枯らして小女郎のところへ。
小女郎は「私はお前の女房のつもり」とばかりに、
想い人の窮状をなんとかしようとする。
そこへ、
抜け荷で大もうけした毛剃が、小女郎を身請けしに来た。
小女郎は、
宗七の命を奪おうとしたのが毛剃だと知らない。
二人の男が顔を合わせたとき、宗七の運命やいかに???
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團十郎の「よか、よか」とか、「酒じゃ、酒じゃ」という
鷹揚なセリフまわしが耳に心地よい。
菊之助の傾城姿が美しい。昼の部で魅せた若者とは別人。
声の調子もまったく違う。
これは近松門左衛門の作。
当時長崎で発生した「抜け荷の下手人一斉逮捕」事件を題材に創作、
長崎独特の異国情緒をふんだんに取り入れて大当たりをとったといいます。
私は歌舞伎で初めてイヤホンガイドを使ってみました。
この「毛剃」の解説は小山観翁さん。
穏やかで目立たない声で、非常に的確に邪魔にならない解説をなさる。
解説によると、
これはお話が途中で、もっと続くということでした。
この場では宗七と小女郎は夫婦になれることになって幕なのですが、
その後、この二人には「地獄が待っていた」と
思わせぶりな一言でイヤホンガイドは終わります。
「あの」近松です。
生きるため、添い遂げるための選択肢として
海賊の一味に加わるようになる京都の商人・宗七と傾城の小女郎。
その後のお話はどう展開し、
いったいどんな「地獄」が描かれるのか、
とってもとっても知りたくなりました。
ほかの演目については、また別の機会に。
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