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吉例顔見世中村勘九郎襲名披露公演@南座(3)総まとめ

今回は、はじめ夜の部だけにしようかと思っていたが、
昼の部も観ることにして本当によかったと思っている。
「壽曽我対面」については(1)でも書いたが、
改めてこの演目がよくかかることの意味を噛みしめた。
また、今回は本当にスター揃いで華やかだった。
平成中村座のとき、役者も舞台の幅も「物足りない」と感じたのと対照的。
老舗南座の、顔見世興行の、この顔ぶれでこそ成立する演目だと思った。
「佐々木高綱」は初見。
岡本綺堂らしい権力に物申す正義と反骨精神と人間愛の物語。
我當の大きさが立派。ともすれば理屈っぽくなるセリフ劇を、
抑揚のある声量豊かな声で喜怒哀楽を吹き込んでくれた。
孝太郎と愛之助の兄弟は、
ちょうど曽我十郎と五郎と反対で、姉がかたき討ちにはやり、弟がいさめる形。
人の好さそうな愛之助のところに、姉役の孝太郎が訪ねてきたその瞬間、
物語がぐーっと動き出すところが見事だった。
ギリシャ悲劇の「オレステス」をほうふつとする。
我當、孝太郎、愛之助、と松嶋屋が手堅い演技で見せた。
続く「梶原平三誉石切」
よく見る話だけれど、「佐々木高綱」とセットで見ると、
登場人物につながりがあるのでいつもとちょっと見方が変わった。
休場の團十郎に代わり、梶原は翫雀。
私は翫雀、好きだな~。この人、なんでもしっかりこなせるいい役者だ。
残念なのは、小柄なこと。もうひとまわり大きければ、という恨みが残る。
でも好き。
「廓文章・吉田屋」
私は仁左衛門・玉三郎のものを観てしまったので、
藤十郎の伊左衛門ってどうなんだろうって思っていたのだが、
やっぱり藤十郎はすごい!
ていうか、別物。
いわゆる「ぼんち」って、つまりこういう人だよな~って納得。
勘当されて尾羽打ち枯らしても、ふっと匂う金持ちのわがままさっていうか、そういうの。
「なんなのコイツ」っていう感じと、「かなわんな~」っていう感じ。
そうなんだよね。
初めて藤十郎で「河床」みたとき、紙屋治兵衛にまったく感情移入できなかった私。
あの時に比べると、少しは「ぼんち」を容認(笑)できるようになったかも。
いずれにせよ、同じ上方とはいえ、これは仁左衛門では出ない味だな。
仁左衛門と玉三郎だと、
伊左衛門さんいい男すぎちゃって、夕霧にスネるところも甘えてるだけみたいに見える。
藤十郎の伊左衛門は、ほんとイケズ。何様?って感じ。
お金もないのに何いばってんの、的な。ブツブツ文句ばっか言うし。
でも、そういう伊左衛門を、夕霧は愛してるのよね。
この夕霧を演じる扇雀が、もう最高に素晴らしい!
ふて寝している伊左衛門に、口づけせんばかりに顔近づける夕霧のせつなさ。
伊左衛門のどんなイケズもいとわない。
来てくれてうれしい。会ってくれてうれしい。生きていてくれてうれしい!
病気にまでなっちゃった夕霧の、愛の深さをおしえられました。
ほんとに、昼の部観てよかった。
(ちなみに、こちらが玉様と仁左衛門丈の「廓文章」レビュー。)
夜の部、
「仮名手本忠臣蔵」は(2)に、「船弁慶」は(1)に、詳しく書きました。
ここで付け加えるとすれば、
藤十郎の義経が放つオーラでしょうか。
「廓文章」のときもそうでしたが、花道に登場したそのときから、
ほかの人とは明らかにちがう存在感で輝きまくります。
目が吸い付いていっちゃうの。
義経の地位の高さと、若さ・青春と。どちらも感じさせる藤十郎が、すごすぎる!
夜の部最後は「関取千両」
「双蝶々曲輪日記」の「角力場」みたいな話です。
橋之助も翫雀も、関取の役はとても似合います。
このお話の結末を見届けたとき、口から出てきた言葉は
「男ってバカだよな~」
であります。
恩人の女を請け出すために、自分の妻を売ってどうすんじゃ!!
それも、妻が自ら売られていったのに、
「何にも言わぬ!」とか言っちゃって見送ってさ。
妻が決断してなければ八百長やってわざと負けるつもりだったわけだし。
正義より、愛より何より、義理が大事なわけだ。
まあ、
勘平だって似たようなもの。
盗みも妻の身売りも、すべてが忠義のためですから。
結局、歌舞伎って、バカな男の話の連続なんだよね。
バカだけど憎めない。
アホだけど、そんな男に女は尽くす。
理不尽だけど、
理不尽こそが人生だ。
お芝居を見に来る庶民は、自分の人生の理不尽さを噛みしめつつ、
その理不尽さの中にきらりと光る真の愛を見つけ、
その脇に咲く仇花の可憐さに目を細め、
ちょっぴり胸のすく思いで日常に戻っていく。
そんな力が、歌舞伎にはあるんじゃないか、と、改めて考えたのでした。
今回、南座はお囃子や義太夫がとても充実していました。
顔見世ならではでしょうか。
楽しませていただきました。

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