まず、昨日の続き、
Dプロの二幕目「七段」について。
由良之助(=内蔵助)が、祇園の一力茶屋でべろんべろんに酔っ払い、
「遊蕩は敵をあざむく“振り”であって、本当は仇討ちを考えているはず」と
真意を確かめに来た赤垣源蔵ら味方たちに対し、
「敵をあざむくには味方から」とばかりに酩酊振りを見せ付ける場面。
ここでの見せ場は
一つには、由良之助が密書を読むところを
売られて傾城となったお軽に見られてしまうところ。
2階から、それも手紙の裏側から透けて見えるだけの文面を、
背を向けて手鏡をかざし、文字通り「鏡文字」の鏡写しで判じよう、
という思いつきが舞台に厚みを持たせる。
巻紙の手紙を長く垂らしながら読み進む由良之助、
垂れた巻紙の先を縁の下に隠れてたぐり、盗み見ようとする
獅子身中の虫・斧九太夫、
上手の「2階」にはお軽。
もっとよく見ようとしてイナバウアーとは言わないが、ぐぐっと背中を反らせる。
舞台全体に散らばる、見事な三角点である。
後ろに反ったはずみにかんざしを落としてしまったために、
由良之助はお軽に手紙を見られたことを察知する。
由良之助はお軽を呼び寄せ、身請けしようと約束する。
「3日一緒にいてくれれば、あとは自由だよ。
好きな男がいればそいつのところにいってもいいし」などと甘い言葉を。
勘平の自害を知らないお軽は、有頂天で身請けの話にのってしまう。
そこに現われたのが、
赤垣らとともにやってきた寺岡平右衛門。
塩冶の家の足軽で、実はお軽の兄である。
思わぬところで兄と再会できたお軽は、ことの次第を兄にしゃべると、
兄は妹が、見てはいけない手紙を見、
由良之助が妹の口封じをせんがために身請けしようとしていると察する。
ここで平右衛門のやることが、むごい。
それまでの兄妹のやりとりをみれば、非常に仲がよさそうなのに、
いきなり妹を刺し殺そうとするわけである。
「仇討ちの秘密をペラペラしゃべられてはいけない」
そして
「どうせ殺される身ならば、この兄が手にかけ、
その首持って由良之助殿のところに参じ、
手柄によって仇討ちに参加させてもらおう」というのである。
それでもさすがに迷いがあったか、
女相手に問答無用の一突き、をしくじってしまう。
一瞬我に返った平右衛門は、
お軽に勘平の最期について語るとともに、
自分が今しでかそうとしたことの理由も打ち明ける。
お軽は勘平の死にショックを受け、
これ以上生きている意味を失ったこともあり、
「お兄さんが私を殺したら、お兄さんの罪になる。
私は自害するから、首なり何なり好きに持っていって、
いいように使ってちょうだい」と覚悟を決める。
委細を聞き及んだ由良之助が待ったをかけ、
「お前の忠心はわかった」と平右衛門を仲間にすると約束し、
血判を押した勘平の妻とわかったお軽も殺さない。
代りに縁の下の九太夫を刺し殺して、万事おさまる、の段である。
由良之助を演じた橋之助は、
疲れからか、声が割れ、かなり聞き苦しかった。
「できる中年男」の色気と余裕が、いまひとつ。
期待が大きかっただけに、少しがっかり。
Bプロの仁左衛門で見たかった、というところか。
もう一つの見どころ、寺岡平右衛門は勘太郎。
一幕の勘平とはうって変わって、コミカルな役どころだ。
いわば、
「お、さくら。こんなとこで飲み屋のネエちゃんなんかやって、
どーしたんだ?
それにしても、しばらく見ねえうちにきれえになったなー」的、
寅さんタイプのキャラクターである。
勘太郎は、
「五段」「六段」では狂気に押しつぶされる勘平を好演したが、
この平右衛門は、まだまだ敷居の高い役だろう。
繰り返しのセリフがあるところなど、
段取り的に進む感が拭えない。
繰り返しをちがうトーンで演じることができれば、
また芸の幅が広がるというもの。
Bプロでは、こちらが橋之助。
かなり評判がよかった様子。見たかった。
この役は、勘三郎で見てみたいところである。
見たいといえば、
Bプロでやる「五段」「六段」は、勘平の役が勘三郎。
「A、B、C、D、全部見ました!」という方のお話では、
「同じ話なのに、役者がちがうとまったくちがった印象になるんですよー」と
感慨深げだった。
父と子、2タイプの勘平を見たら、
ますます歌舞伎の奥深さ、面白さ、老練の妙、若さの輝き、
いろいろなものが見えてきたことだろう。
平成中村座、残すところ今日を含めてあと3日。
お時間のある方、
ぜひ「全部」体験してみてくださいね。
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