よかった!
目に焼き付けた仁左衛門の一世一代の与兵衛の完成度とはまた違った、
「初犯」を目撃した感あり。
仁左衛門は1つの殺しの中に、殺人者の気持ちすべてを入れ込んだ。
愛之助は、流れである。
与兵衛という男が、改心し、もう親に心配かけたくない、と思ったからこそ
「どうしょう、どうしょう……」の果てにやってしまった殺人。
彼の殺人現場の目撃者になってしまった私たち。
そんな感じである。
福助のお吉が与兵衛の殺気を感じてからの表情がよい。
与兵衛の一挙一動を見逃すまいとみつめるその目。
昨日は外国人の観客も多かったが、
なんの台詞がなくても生き物の本能として分かる戦慄。
天敵に追い詰められた鹿かウサギの目である。
「死にたくない、死にたくない……」といいながら逃げ惑うお吉と
暗闇に撒かれた油に足をとられながらも確実にとどめを刺そうとする与兵衛の絡みは、
力みなぎるクレッシェンドや美しいストップモーションを見せ場としながらも、
段取り臭さを感じさせず、殺戮の「流れ」をはずさない。
そのリアリティがあればこそ、
「やってしまった」後の与兵衛のうろたえ方にも納得できるし、
花道を駆けていく彼の行く手に絶望が見える。
仁左衛門のときは、
チンピラがこれを「端緒」として稀代のワルになっていくどす黒さが見えた。
それとはまったく違う、
「普通の人」の心の闇が見えた感じがする。
義賢をやったあたりから階段を一つ上がった愛之助。
自分らしい魅力を開花させつつ、
仁左衛門のおしえをよく体得し、遠めにもわかる端正な美しさが心強い。
次の演目が、また楽しみである。
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