市川染五郎主演の新作歌舞伎
「人間豹」シリーズ第二弾
「京乱噂鉤爪(きょうをみだすうわさのかぎづめ)」を
国立劇場で見てきた。(10/18)
第一弾の「江戸宵闇妖鉤爪(えどのよいやみあやしのかぎづめ)」
は未見。
ただし、パンフレットには第一弾について、
舞台写真を使ってのくわしい筋書きが載っていて
あとからこちらも合わせて楽しめるようになっていた。
東京・隼町の「国立劇場」は
最高裁判所の隣りという、場所だけは知っていたものの
中に入るのは恥ずかしながら初めて。
ロビーが立派なのと、
二階や三階の廊下に椅子やテーブルが多く、
お弁当を食べるのにはゆったりしてよい。
ただし歌舞伎専用劇場ではないので、
付けはずしの可能な花道はあるものの、
桟敷席はなし。
この「桟敷席はなし」っていうのが、
音響効果にかなり影響を及ぼしている感じがする。
セリフが届きにくい。
私は花道のすぐ横、前から9番目とものすごくいい席だったにも拘らず、
時としてセリフが聞こえにくかった。
音が拡散してしまうのではないだろうか。
梅玉など、歌舞伎座では声がひときわ大きな人までもが、
いつもより声量がないようにさえ思える。
国立劇場は、12月も行く予定なので(まだチケットはないけど・笑)
異なる演目でもう一回確かめてみたい。
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さて、新作について。
もっとも感激したのは、幕間寸前の、染五郎宙乗りである。
下手花道にさしかかるあたりから上手三階席奥までの長い道のりを、
体操かサーカスの大車輪のように、グルグル廻りながら客席の上を進んでいく。
ものすごい迫力。ものすごい速度。
染五郎、並大抵の体力ではこれはできない。天晴れ。
私は前述のように1階席だったが、
二階席三階席の、特に上手側人には染五郎が迫ってくる感じで、
ものすごく楽しめたはず。
よく考えられたサービスだ。
その上、到着点方向から強く浴びせられる照明が、
1階サイドの壁に大きな影を作って、不気味さを演出。
席によって宙乗りをあまり見られない角度の人たちにも、
ちがった面白みを提供していてよく考えられている。
それから、
名人形師がもっとも愛した最高傑作である「花がたみ」という人形が
陰陽師・鏑木幻斎(梅玉)の妖術で人形が動き出し踊る、
そこは人形役の中村梅丸が見事だった。
その後も「花がたみ」は重要な役回りとして出てきて、
人かと思えば首が折れて人形、
人形と思うと手が動いて、と大活躍だった。
さまざまな仕掛けを楽しめ、場面場面はいいのだが、
話自体にかなりの無理がある。
第一作を見ていればまた違うのだろうが、
人間豹である恩田(染五郎)と明智小五郎(幸四郎)との、
いってみればルパンと銭形警部みたいな絆がなぜ出来たのか、
そのあたりがわからない。
わからないので、最後に小五郎が「恩田~!」と叫んで泣いても、
その過多な思い入れに、かなりひいてしまった。
もっといえば、
恩田がなぜ人間豹になったのか、
その怨念はどこから来ていて、それがなぜ最後になって昇華するのか、
それもよくわからない。
本作では、ほとんど鏑木のつまらん手下に成り下がっていて、
人間豹が主役っていう感じがしない。
「X-men」のウルヴァリンくらいの存在感と哀愁がほしいところ。
セリフも、
時々説明口調になるところは再考の余地がある。
素人が何をと叱られそうだが、
幕末の状況分析を延々と語られても、それは歌舞伎になじまない。
その上、
別に竜馬とかが出てくる話でもなかったので、
必要なかったのではないだろうか。
染五郎の二役(恩田と人形師の娘)にしても、
せっかくの優男なので、
どちらかというと立ち役の二役のほうが見栄えがする。
入れ替わりは見事だったけれど、
見事に入れ替わり過ぎて違和感がなさすぎ、
「え?何で?どうして?すごい!」という
早変わりならではの驚きを楽しむ余韻を与えてくれなかった。
ここはベタでも、
「ほら、すごいでしょ!」っていう仕掛けがほしいところ。
こうやって新作を見ると、
歌舞伎っていうのは客サービスの見本市みたいにして
今の形になったんだな、と
つくづく思う。
でも、
新しいものを10も100も作った結果、
今残っている歌舞伎が古典として輝いているのだから、
新作に挑むことは、とても大切なのだとつくづく思う。
がんばってくださいね!
明日の歌舞伎のために。
- 舞台
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