「およう」は竹久夢二の生誕120周年を記念して作られた映画。
その竹久夢二役が、どういうわけか熊川哲也。
原作は緊縛小説の団鬼六、「極妻」シリーズの関本郁夫が監督と、
それだけ聞いたって・・・なに?・・・っていう取り合わせです。
もちろん、熊川は踊りません(!)から、
あらゆるビデオ、DVD、本などを買ってきた私ですが、
これは唯一買いませんでした。
でも、テレビでオンエアされているのを見たので、その感想を。
思ったより、よかった。ていうか、心に残る作品だった。
一つ目。
熊川扮する竹久夢二は、その画風からは想像もつかないほどのDV男として描かれていて、
最初はほんと、ひいちゃうくらいなんですが、
最後の方で、芸術と葛藤してもがき苦しむ気持を吐露する場面があり、
そこが、妙に熊川自身とだぶって聞こえて、
ああ、天才芸術家っていうのは、同じような苦しみがあるんじゃないかなー、と感じました。
二つ目。
洞口依子の壮絶な女優魂。
多くの夢二の女の中で、ただ一人戸籍上の妻になった岸たまき役。
タイトルは「およう」だから、お葉とのいきさつがメインなんだけど、
彼女との、いわゆる「くされ縁」が、この映画の底流として描かれています。
夢二は他の女(お葉とか彦乃とか)と好き勝手してなかなかたまきに寄り付かない。
たまきはずっと夢二を愛する。絶対自分のもとへ帰ると信じてる。
それも、「私、耐えます」みたいな愛し方じゃなく、
「なによ、あんたに夢二はわかりっこない」「夢二は、私にしか扱えないのよ」みたいな感じで。
DV男・夢二に殴られ、全身アザだらけさせられても、
川の浅瀬で大喧嘩して、水浸しになっても、
全身全霊を投げ打って、「愛している」をぶつけていく。
・・・こんな女じゃ、夢二も逃げるよなー、っていう、鬼嫁モード。
でも、やっぱり夢二が人間として自分と対等に扱っている女は、彼女だけなんだと気づかされる。
男と女の、深い愛憎に、うならせられます。
これを見て「洞口さんって、いい女優になったなー」と思っていたら、
他の番組で彼女のドキュメンタリーをやっていた。
なんと、女性特有のガンにかかって、若いのにとても大変な思いをしたことがわかった。
二重に応援の気持が湧いてしまった。
デビュー当時から、ありきたりの役をやらない人で、ものすごく目立った人だけど、
私はこの「およう」は、彼女の代表作じゃないかな、と思う。
竹中直人、渡辺えり子、里見浩太郎など、脇の演技もさすがです。
(上原さくらの彦乃がイメージそのままでかわいかった)
この映画にとって熊川がベストキャスティングだったかどうかはわからないけど、
熊川にとっては、素晴らしい経験であったこと、間違いないです。
DVDには特典メイキング映像がついているということです。
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