最近、観始めた人にすすめるのが「ドン・キホーテ」のDVD。
粒揃いのKバレエDVDの中にあって、
これは完成度も高く、万人向けで絶対買ってソンはない。
熊川と「ドン・キホーテ」の関わりは深い。
跳んで回って、という男のダンサーにとって見せ場の多いこの演目は、
熊川の十八番として、常に熊川とともにあった。
1989年、ローザンヌ国際バレエコンクールで金賞を受賞した時踊ったのも、
1993年、英国ロイヤルバレエ団でプリンシパルになったきっかけの舞台も、
1994年、日本で初めて全幕の主役を踊った舞台も、
1997年、英国ロイヤルバレエ団来日公演で初主役を踊った舞台も、
みなこの「ドン・キホーテ」だった。
ロイヤルでの公演回数もかなりなものではないだろうか。
様々なゲスト出演公演でも、グラン・パ・ド・ドゥを披露してきている。
1992年、ローザンヌコンクール・記念ガラ公演で、
やはりローザンヌコンクールで頭角を現した吉田都(期は違う)と組んで踊ったこともあった。
その熊川が「決定版」として作り上げたKバレエのドン・キホーテなのだから、
面白くないはずがない。
熊川の見せ場がたっぷり。その超絶技巧にうなる回数数知れず。
お茶目な喜劇として、登場人物一人ひとりが生き生きと描かれていて、
「踊りの名場面はいいけど、つなぎの部分がつまらない」ということがない。
大体、「ドン・キホーテ」といいながら、主役はバジルとキトリという若い男女で、
セルバンテスも真っ青なくらいキホーテ翁は刺身のツマといった感のあるこのバレエで、
これほど「ドン・キホーテ」の場面が多く、それも楽しい舞台もあまりない。
また、第二幕の最初の場面は熊川版オリジナルだが、
幕が開いたその瞬間から心奪われ、美しいセレナーデに酔わせてくれる。
珠玉のバ・ド・ドゥ。
踊りを多様化するために場面を変えてみました、といったよくある場当たり的なシーンの連続でなく、
バジルとキトリ、恋する二人の決意の逃避行が、心にしみる。
私は、何度も彼の「ドン・キ」を見ているけれど、
一度として同じだと思ったことはない。
回を重ねるごとに、彼は今求めているものを踊りの中に取り入れ、
最高のパフォーマンスを披露してくれる。
じゃあ、昔のドン・キより今の方が数倍いいか?と聞かれたら・・・。
16歳の熊川の、素晴らしいソロは、今見てもまったく見劣りしない。
どれが一番、などとはいえないくらい、熊川とバジルは一体化しているように感じる。
ただ、一つだけいえる事。
私は、全幕の最後の最後に踊られるグラン・パ・ド・ドゥが大好きだ。
そこだけ切り取って踊ったときよりも(それもすごいんですが)
バジルとキトリの結婚式の踊りとしてのパ・ド・ドゥが。
きっと、二時間半の物語を、舞台上のダンサーと一緒に過ごした後だからだろう。
恋の成就に華やぐ二人の高揚が、見ているこちらにも乗り移ってくるのだ。
彼らもまた、体の中に熱い恋の歴史を宿して踊っているのではないだろうか。
7月には新国立劇場でこの「ドン・キホーテ」が再演される。
短期間の公演だし、キャストもいろいろで、チケットも今からでは手に入りにくいとは思うけれど、
もちろんナマに勝るものはない。
もし可能なら、劇場へ、GO。
観ると、やっぱりDVDほしくなりますよ!
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