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「ドン・キホーテ」

15日のリハーサルで負傷した橋本直樹に代って
マイアミシティバレエのプリンシパル・ソリスト清水健太がバジルを務めた
Kバレエカンパニー「ドン・キホーテ」。
昨日は「代打の代打は・・・」という発言をしたのだが、
実際に観た感想を一言でいえば、
「代打の代打がホームランを打った!」
とでもいおうか。
清水は、随所に舞台経験の豊富さを垣間見せ、
安定した技術と表現力で「急ごしらえ」であることなど微塵も感じさせない
素晴らしいステージを作り上げた。
彼のよさは、強靭かつしなやかな上体の使い方。
特に手の先から肩にかけて。
私は4階中央という遠目からの鑑賞だったが、
彼の手の動きだけで胸がキュンとした。
掌が、肩が、腕のラインが語りかけてくる!
これは、
芳賀クンや輪島クンにははっきり言ってまだ獲得できていない力。
彼らの動きには「次はこうで、その次はこうで・・・」と
振りを振りとしてなぞっていると感じさせてしまう硬さが透けてみえ
自然な表現の発露として感じられない時がある。
清水に、そのぎこちなさは全くない。
パートナー康村和恵との動きも完璧。
ゆっくりしたパートでは完全にシンクロ。
キメの場面では一歩メリハリの利いた動きで一歩先んじ、
音楽をリード。
清水健太のアダージオは、本当に、魅せる。
全幕の主役としては、最高の配役だったのではないだろうか。
高速ピルエットも熊川ばりで、キレがあり思わず拍手。
しかし、ジャンプが・・・。
唯一、彼のパフォーマンスで見劣りするのがジャンプ。
Kバレエで熊川の息をのむほど高くて滞空時間の長い跳躍を見慣れている観客にとって、
清水のジャンプは
「え?」というほど低かった。
この点は、熊川に勝るとも劣らないとさえ思えた橋本直樹のジャンプには到底かなわない。
だから、ソロのヴァリエーションは、物足りないし、盛り上がらないのだ。残念。
ただ、自分なりの完成品をきちんと提示するプロ意識に、
この人は、舞台の中央に立つ素養を身につけた一流の人だな、と思った。
9月からのパフォーマンスに大いに期待。
昨日は、中村祥子/宮尾俊太郎のメルセデス/エスパーダコンビも絶好調。
特に宮尾のエスパーダがいい。
Kバレエで長くそのイメージを作ってきたキャシディのエスパーダをものともせず、
いなせで「いいカッコしい」な若者の、はじけるようなイケメン闘牛士を自然体で演じていた。
長身二人のダイナミックな踊りはステージをパッと華やかにする吸引力をもつ。
彼らの初キトリ/バジルの舞台を見られる人はきっと満足することだろう。
今回、ダウエルのガマーシュばかりを期待していたが、
昨夜もっとも感動したのは、ルーク・ヘイドン演じるドン・キホーテ。
風車に闘いを挑み傷ついたキホーテ翁が見る夢の場面である。
キューピッドに連れられて、ドルシネア、キトリ、夢の女王が次々と現れては去る。
(一体、どれが私の想いびとなんだ?)
という、キホーテの混乱が、4階からも手にとるようにわかる。
コールドの列が、時に道を作って彼を導き、
時に迷路の森となる。
最後は円陣となって彼を追いつめ、「仇敵」風車に変身、翻弄する・・・。
全体の構成自体がキホーテの心理を端的に表す名演出だが、
それもこれも、ルークの演技力があってこそなのだとしみじみ感じた。
昨夜のキホーテはかくしゃくとして、どの場面でも、ものすごくカッコよかった。
Kバレエのキホーテは、どんどん「老いぼれボケ老人」のイメージから離れていく。
騎士道まっしぐらのキホーテ。大マジメだから可笑しい、という点はあるものの、
ドタバタの道化はサンチョ・パンサとロレンツォで十分と思わせてくれる。
さて、本公演終了後しばらく休団する康村和恵のキトリ。
彼女のキリッとしたパフォーマンスはいつみても気持ちがいい。
堂々としたステージを終え、カーテンコールでは肩を震わせて泣いていた。
思いっきり、踊れたかな?
あと一回。清水クンと、22日がんばってね。
そのカーテンコール、芸術監督・熊川も登場。
連日顔を見せているようだが、負傷直後の「海賊」の時に比べ、
かなり元気そうに見えた。
今回「最初から熊川なしとわかっているKバレエ公演」に足を運び、
熊川の凄さを思い知るとともに、
「熊川なし」でも、そんじょそこらのバレエ団より絶対パフォーマンスは上だな、と
心から感じた。
次から次へと若い才能が頭角を現す。
昨日の花売り娘の一人、白石あゆ美はアーティストからの抜擢だが、
もう一人の花売り娘、ソリストとして安定した踊りを続ける副智美と比べても、
まったく遜色なかった。
Kバレエは熊川の実力とネームバリューで興行的にはずっと成功し続けてきたが、
だからといって順風満帆でここまで来たわけではない。
さまざまな問題を、少しずつクリアしてここまで大きくなってきた。
女性プリンシパルがヴィヴィアナしかいなかった時代があったが、
いつの間にか実力のある女性たちが揃った。
男性プリンシパルが、熊川・キャシディに誰も続かなかった時代があったが、
気がつけば、たくさんの男性ダンサーが育った。
そこにはカンパニー内外でのオーディション制という切磋琢磨が功を奏しているのではないか。
がんばれば、主役も夢ではない。
そのモチベーションの高さがダンサーの質を上げ、
移籍という形で仲間に入りたいと思う人間も増していったように思う。
「熊川がいない時代」という、最大とも思える問題を抱えているKバレエ。
この問題がクリアされる頃には、
どんなKバレエになっているのだろうか。
「一体どこまで大きくなるのか?」
これは、かつて熊川に対して使ったフレーズ。
今は、Kバレエに使ってみたい。

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