外野がやきもきしていても、何にもならないので、
自分を鼓舞する(?)する意味でも、しばらくKバレエのDVDをご紹介します。
2004年、ニューヨークのリンカーンセンターで開催されるアシュトン記念公演に、
Kバレエカンパニーが「ラプソディ」で招聘されたと聞いた時、
もちろん驚きはあったけれど、「当然」とも思った。
だって、Kバレエの「ラプソディ」を見た時、私は即座に思ったものだ。
「こんな素晴らしい『ラプソディ』が踊れるのは、Kバレエだけだ!」って!
この演目は、1980年、アシュトンがミハエル・バリシニコフとレスリー・コリアのために振付けたもので、
男性の主演パートは、いわばバリシニコフだからこそ踊れる超絶技巧の連続である。
そのジャンプ、その回転、その速さ、
ミーシャならではのパートを完璧に踊れるのは、彼が引退した今、熊川哲也ただ一人。
そういっても、決して過言ではあるまい。
古典のようなわかりやすいストーリーがあるわけでもなく、
赤、黄、緑、と原色を大胆に配した、飛び出す絵本みたいな幾何学的な舞台装置と衣裳が、
一種独特な雰囲気をかもし出す中、
ラフマニノフの曲想だけを頼りに次々とパフォーマンスが繰り広げられる。
まるで風神のようにステージを猛スピードで駆け抜ける、その瞬間でさえ、
細かなステップやつま先の動きが見逃せない、という高度なテクニックに、
客席の私はアッと声を上げてしまったり、その声を呑み込んでしまったり。
そして、その熊川の動きを邪魔しない、洗練された12人のKバレエのダンサーたち。
世界に名ダンサー、名バレエ団は数多い。
けれど、『ラプソディ』に限っては、Kバレエが世界一だ。
なぜなら、熊川哲也がいるから。
心からそう思って劇場を後にしたものだ。
それが、康村和恵のKバレエデビューの日であった。2003年の夏である。
ゲスト・プリンシパルのヴィヴィアナ以外、女性のプリンシパルがいなかった当時、
これで、Kバレエも安泰だな、と思った日が今は懐かしい。
今や、ダブルキャストどころか、一体何通りの組み合わせが可能か?というほど
女性ダンサーのレベルは向上している。
DVD「Rhapsody」
で主演を務めている吉田都は、この時、DVD収録のためだけに踊るはずだった。
文京シビックホールでは、前述の康村和恵が二日踊るだけの予定だったのを、
その前日にもう一日、急遽吉田が踊ることになり、話題になったものである。
その吉田も、現在では正式にKバレエに所属する。
彼女の柔らかで、しかもキレのよいパフォーマンスは、いつみても天下一品。
熊川同様、音楽を体にしみこませ、
自らが音楽を奏でながら踊っている、そんな一体感が素晴らしい。
私にとって最高の「ラプソディ」は、
ヴィヴィアナと踊ったパ・ド・ドゥ。
全幕ではなかったけれど、忘れがたいステージだった。
フィギュアスケートでよく使われる、ラフマニノフの有名な調べにのって、
二人が舞台奥から手を取り合って進み出る。ゆっくりと。
それだけで、何と美しかったことか。
二人の腕が頭上で作る、ハートのような形。
それぞれの片腕が、まるで「ベターハーフ」を探しあてたハートの片割れのようで、
涙が出そうになるくらい感動したのを覚えている。
ストーリーのないバレエだからこそ、
そこにどんな感情を込められるかで見るものの反応が違ってくるものだ。
そのヴィヴィと踊ったリンカーンセンターには、
初演者のバリシニコフが見に来ていたという。
どれほど晴れがましい舞台だったことだろう。
ミーシャは、熊川が小さい頃から憧れ、お手本にし、
すべてのパフォーマンスをマネしてきたダンサーなのだ。
彼の十八番は、そのまま熊川のレパートリーなのである。
そんなことを考えながら、このDVDを観る。
一度ナマの舞台を観たものにとって、DVDは素晴らしい魔法のランプになる。
*(15:33追記)
17日付で、KバレエカンパニーのHPに怪我についての正式公表と、
以降の『海賊』のキャスト変更発表がされています。
通常、ダンサーの怪我によるキャスト変更は、チケット払い戻しの対象ではありませんが、
今回は、チケットの払い戻しのところもあるようです。(詳しくはHPをご覧ください)
熊川を見るための18000円、と思っていた方には本当に残念なことですし、
地方によっては、本当に稀な機会だったでしょうから、心中お察しします。
でも、この『海賊』のチケットは、熊川なしでも立派に18000円の価値があると思いますよ。
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