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「若者と死」


「今日、人が芸術になる瞬間を目撃しました」
これは、昨年8月13日、Kバレエカンパニー「若者と死」の舞台を観た日の
私のMixi日記の第一声である。
「熊川哲也は、
完璧な肉体を以て舞台上に存在するだけで芸術、
プティの作品をみごとに具現化したダンサーとして芸術、
そのプティの振付を完全に理解した上で取り込み、さらに変容させ完結した点で、
芸術となりました。
あまりの無欠さと、渾身のパフォーマンスに、私、完全にノックアウトです。
彼は、また一つ、上のステージに上がった感じ。
一度でも同じ人間として考えた私が浅はかだった。彼はアートの化身です。
身体が震えた。今日の舞台は、歴史に残ると思う」
この舞台に先がけ、
熊川はダーシー・バッセルをパートナーに
「若者と死」」のDVDを作成した。
時間をかけて取り組んだひと夏のエチュードは、
2002年の初演の時とはまた違った解釈を芽生えさせ、
ローラン・プティをして「満足している」と言わしめる作品に昇華させた。
超絶技巧を持ったダンサーが、芸術的な内面表現を併せもつ。
それによって、初めて「ダンサーが作品に負けない」で踊れる、というのだ。
プティは「mature」という言葉を使って彼のパフォーマンスを賞賛している。
かつて「ボレロ」で身体に染みこませたプティのステップを、
熊川は以前より正確に、そして意のままに、踊ってみせる。
そこにはプティもいる、コクトーもいる、
でも、熊川もいるのだ。
踊らされているのではない、すべては彼を通してもう一度生まれなおしている。
速さ、鋭さ、正確さ。
自分の持てるすべての技を完璧に駆使して彼が表現するのは、
若き芸術家の苦悩である。
ものを生み出す時のぎりぎりの葛藤。
素晴らしいインスピレーションを得ながら、
その手からこぼれ落ちるようにすり抜けていく恐ろしい瞬間。
自分から才能が去っていくかもしれないという不安と焦燥。
映画「およう」でかいま見た芸術家の苦悩を、
熊川はバレエで表現している。
Mature。
その絶頂で負傷してしまったことを、改めて悔やませるようなDVDである。
彼はじん帯の再建手術をする決意をしたと聞く。
「40歳、45歳になった時には、また違った『若者と死』を踊れるのではないか」という
熊川の言葉(DVD特典映像内)を信じて、
この難局を乗り越えてもう一回り大きくなるだろうことを楽しみに、
彼の復帰をじっくり待ちたい。
DVD「若者と死」
の一般発売日は6月30日です。
現在公演中の「海賊」(Kバレエカンパニー)の会場では
それに先がけて販売されています。

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