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今だから語れる、熊川のロイヤルバレエ退団の真相(2)

今日は、モニカ・メイスンへのインタビューから、
熊川哲也の英国ロイヤルバレエ電撃退団の真相に迫っていきたいと思います。
……なんて、まるで私が斬りこんだ、みたいですが、
これはひとえにCNNの番組「Revealed」のインタビュアーの力です。
英語が苦手でない方は、原文にあたってください。
モニカは、熊川が15歳でロイヤルバレエスクールに入った頃から知っています。
「その頃は、英語もほとんどできなかったから大変だったでしょう。
 なのに気が強くて、何を言われてるか自分がわかってない時も、
 それがバレて面目を失うのがいやだったのよ。
 でもね、
 彼は素晴らしかったし、みんなから愛されたし、それは今も変わらない。
 そうね、彼は本当に特別な素質に恵まれていて、それは一番最初からはっきりしていたと思うわ」
「彼がどんなにヤンチャだったかってことは、当時の顔を見ればわかるでしょ。
 今はちょっと違うわね、芸術監督としての責任を負って。
 もちろん、年齢的なこともあるけど、オトナになった。
 あの頃は、とにかくキラキラしててただ可愛くって、憎めない悪ガキよ。
 何をしようが、あの子をへこませることなんかできなかった。
 とっても気がつくし、はしこくてね。
 そして早いうちから、
 どうやったら自分をアピールできるか、どうやったらスターになれるかを知っていて、
 実際、スターになったのよ」
英語という言語的文化的なネックがあったにも拘わらず、彼が成功できた理由について、
多くの留学生を見てきたモニカはこう結論づけます。
「家とは全然違うから、みな寂しい思いをする。食べ物も違うし。
 気候はまあ、日本とは共通点も多々あるけど。
 彼はロンドンになじんでいったし、自分一人の力で生き、人々の要求に応えていった。
 これはとても難しいことなの。
 15歳で遠い海外まで来て、学校に居場所を作る。それだけでもたくさんの勇気やガッツが必要よ。
 彼はものすごいチャレンジをしたわ」
モニカは熊川を「テクニック」だけで評価しません。
「テディは頭がいいのよ。彼は何事にもしくじらないの。誰だってそうあるべきだけどね。
 ダンサー人生ってそう長いものじゃない、だから舞い込んだチャンスを最大限に生かさないと。
 彼は、常にそれをやってきたというわけ」
その「チャンス」の一つ、退団についての言。
「彼が日本に帰るっていうことは、聞いていたわ。
 ただのダンサーから飛び立とうという志があることも知ってた。
 あの子、カンパニーが動かしてる芸術的な面に、とっても興味を持っていたの。
 そこに、アンソニー・ダウエルっていう素晴らしい人生モデルがいたわけね。
 アンソニーは、芸術監督をしながら、まだ現役で踊っていた。
 
「テディはアンソニーのビデオをよく見ていたわ。見ることで、ずい分学んでいた。
 耳をすまし、学ぶことをやめない人だった。
 彼はアンソニーのやり方が好きで好きで、だからもし彼がアンソニーのようなダンサーになれたら、
 今度はアンソニーのような芸術監督ってどんなだろうと思ったって不思議じゃないでしょ。
 あの子は世界中のバレエを見る努力をした。
 彼はものすごい量のビデオコレクションを持っているの。
 他のダンサーのパフォーマンスもよく見た。そして確信したのね、自分ならできるって。
 彼は、正しかった」
そこまで、アンソニーを尊敬していたとは、知らなかったー。
でもそのアンソニーを怒らせて、退団したわけですよね?
「あのことは、芸術監督としてのアンソニーにとって、もっとも大きな打撃だったでしょうね。
 ま、後から考えれば、それでなくてもロイヤルは、あの時難しい時代だった。
 (オペラハウスの改修があって)踊る演目も、ダンサーもカットしなくてはならなかったから。
 改修後に、以前と同じ力を得ることは、とても困難なことなのよ。
 たった4人でも、彼らと同じレベルのダンサーは一度失ったらまた得られるかどうか…
 …つまり、これがテディが出てった時に起こったこと(一緒に退団)なんだけど。
 今、アンソニーとテディが友情を築けるのは、
 一にも二にも、
 アンソニーのバレエという職業に対する高い誠実さと、寛大すぎるほどのやさしさのおかげ。
 そして、テディがアンソニーをものすごく尊敬していることもね。
 アンソニーを傷つけようとしてやったことじゃないから。
 でも、あれは痛かった」
インタビュアーは、熊川が4人の現役看板ダンサーを引き連れて退団したことについて
「彼は一味のリーダーだったのか?」という聞き方をしています。
「う~ん、テディはカンパニーを立ち上げたかったんだと思う。
 それに対して彼と一緒に出たダンサーたちは、
 オペラハウスが閉まる期間自分たちはどうなるかってことが、不安だったんでしょう。
 だって、二年も(常小屋を持たず)放浪するわけだから。
 (舞台装置などのこともあって)レパートリーだって狭められる。
 だから、若者たちは、冒険に出ようと思ったのね。
 そりゃあテディは自信満々だし。
 何かを最初から立ち上げるって言えば、誰だってワクワクするわ。
 マイケル・ナンとビリー・トレヴィットは自分たちで何かやりたかったんだと思う。
 事実、しばらくして、テディから離れてる。
 (*熊川が全幕古典をめざすようになった時点で、Kバレエを退団)。
 だから、きっと、あのタイミングで退団してなくても、少しロイヤルにとどまった後、
 結局は自分たちのめざすところのために、ロイヤルを退団したんじゃないかしら。
 ゲイリー・エイヴィスは、ロイヤルに戻ってきた。
 マシュー・ディボルはアメリカでいろいろなダンスで成功してる。
 スチュアート・キャシディは、今もテディのもとにいる。
 彼は今、ニュージーランドで教える方もやっているのよ」
上の訳はあくまで抄訳。全文ではありません。
熊川が愛したアンソニー以外のダンサーの話、
熊川の「身長」がネックになったことはないのか?
彼がもっとも輝いた、とモニカが思うパリでのコンクールの話、
熊川に一番マッチしていると思うレパートリーとは?などなど、
本音トークで押しまくるモニカの話は、読んでいると情熱が伝わってきます。
愛してくれていたんだね、熊川のこと。
モニカの話を聞いていると、
「熊川はKバレエを、日本のロイヤルバレエにしたいんじゃないか?」と思っている私の考えは、
ものすごく正しかった、とナットク。
それとともに、
若い頃、熊川のヤンチャぶりに手を焼いただろうモニカ・メイスンが
彼の若さゆえのいきすぎや、傍若無人ぶりなどに振り回されず、
彼の才能と、才能を生かそうとする彼の努力と、バレエやその先人に対する敬意を
よくぞ見逃さないで指導してくれたな、と
改めてお礼をいいたい。
ありがとうございます!
明日は、リビングBOOK大賞のノミネート作品を紹介予定のため、
熊川のインタビューの和訳(日本人だけどー)は、その後、ということで。
明日は「くるみ割り人形」も観てくるので、
またいろいろ思うことも増えるかもしれません。

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