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宮尾俊太郎の「ボレロ」@オーチャードホール

Kバレエprezents「青島広志の夏休みバレエ音楽コンサート」に行ってきました。
まずはオーチャードホールを満員にしたことが、すごい。
「バレエのおかげ」と青島さんが言っていました。
青島さんのトークはちょっと駆け足で時々スベることも。
でも、わかりやすかったし、笑いもあって親しみやすかった。
入門編としては、コンパクトなのにレベルが高く幅も広く、
優れたプログラムだったと思います。
小学生連れの親子がたくさんいましたが、
公演中、拍手意外、ずーっと水を打ったように静かでした。
なんて素晴らしい集中力なんでしょう。
子どもたちのマナーもすごかったけれど、
それを助けるプログラムがよかったですね。
バレエつきのものも、バレエなしのものも、
有名な曲が多く、耳馴染みがよかったです。
入門編としては抜群。
バレエつきは、
リヒャルト・シュトラウスの「春の声」(神戸里奈/伊坂文月)
パッヘルベルの「カノン」(遅沢祐介、山田蘭)
チャイコフスキー「眠れる森の美女」から「ローズ・アダージオ」(佐々部佳代ほか)
ボロディン「イーゴリ公」から「韃靼人の踊り」(池本祥真ほか)
チャイコフスキー「白鳥の湖」から「情景」「第二幕のパ・ド・ドゥ」(田中利奈/浜崎恵二朗)
そして、ラベルの「ボレロ」(宮尾俊太郎)でした。
アダンの「海賊」は、バレエなし、とありましたが、
舞台用の正式衣裳をまとったキャラクターたちが登場して一人ひとり紹介、
そのリアクションも堂に入っていて、楽しかったです。
「序曲」冒頭は、ちゃんと踊りながら退場していきました。
バレエの中で光っていたのが、佐々部佳代。
彼女のかわいらしさと気品とは、オーロラ姫にぴったり!
もちろんテクニックも。安定感があります。
彼女で「眠りの森の美女」全幕を、ぜひ観てみたいと思いました。
久々に観た「カノン」にも感動。
初演の頃は、最愛の御母堂の死を乗り越えようとする熊川氏の思いがいやおうなく胸に迫り、
作品そのもののみを純粋に感じることが不可能だったんですが、
今は穏やかに眺めていられる自分がいます。
遅沢さんは、登場したときの後ろ姿からして威風堂々。
その筋肉と立ち姿だけで、プリンシパルってわかります。
「韃靼人の踊り」の池本祥真もよかった。
演じる力と跳ぶ力。軽やかさがありました。
「春の声」は神戸さんと伊坂さんでソツなくこなしましたが、
伊坂さんは少し印象が重かった。
「白鳥の湖」は、8/4に「Kバレエユース」で全幕踊る二人。
これに関しては、8/3に別ペアで観るので、感想はそのときに一緒にしますね。
一つだけ、選曲に関してだけ述べておきます。
「白鳥の湖」のどこを見せるか。そこにセンスが問われるわけで、
あの一番有名なフレーズをもってこなかったことがまず一つ。
今回のようなガラステージでは、白鳥より黒鳥のパ・ド・ドゥのほうが見栄えがするけど、
それも選ばなかった。
この第二幕のパ・ド・ドゥは、作品全体のキモにあたる。
それをちゃんと見せた熊川氏に拍手。
そして、
「白鳥の湖」の次に、「カルメン」が演奏されたんだけど、
ここで「間奏曲」が来るの。
つまり、バレエ「カルメン」での寝室のパ・ド・ドゥ。
ここではバレエはないんだけど、
観たことある人は、ヴィヴィアナと熊川の光景が、脳内に繰り広げられたことでしょう。
「愛」2連発!
「愛」だよ、「愛」、の構成でした。
そして、
トリは宮尾俊太郎が挑む「ボレロ」
当然だけど、宮尾ボレロは、熊川ボレロとは別物です。
だから、
「熊川のように」を期待していた人には、ちょっとインパクトに欠けたと思います。
でも、
私はね、
プティの「ボレロ」を観て、初めてエロスを感じた。
熊川の舞台では、一度も感じたことがなかったのに。
キリっとした印象の熊川版に対し、
宮尾ボレロはしなやかというか、流れるよう。
手足長いし。
椅子をね、とっても丁寧に扱うの。
「椅子は女性の象徴」っていうけど、ほんとにそうなんだなって思った。
椅子とのからみに男女のそれを感じるようになると、
椅子なしであっても、振付の一つ一つにこめられたメタファーが浮き彫りになり……。
それこそ、
同じプティが振り付けた「カルメン」の寝室のパ・ド・ドゥなんて、
「そのものズバリ」な動作だから、かえってエロスなんかふっとんじゃって、
どちらかというと、その中心にある愛の歓びだけが溢れてくるような印象だけど、
この「ボレロ」のほうがもっとエロかったとは、
15年間、プティさんにおちょくられていました~って思わせてくれた、宮尾さん。
だからこそ、そこにあったのは、
熊川ボレロではなく、宮尾ボレロだと、私は思ったのだ。
中盤、ちょっと息切れしたかと思われる場面もあったけれど、
そこからもう一度立て直し、
次々と見せ場をクリアし、決めるところはきっちり決めて、
最後まで持っていきました。
これを観ていて、
私は思わず「初めての『鏡獅子』みたい・・・」とつぶやいてしまいました。
誰にでもできるものではなく、
だから、誰にでもやらせてもらえるものでもない。
「やれ」と言われる人には、それだけのものがある。
今まで15年間も、彼しか踊ったことのないボレロを、
なんで今、
なんで宮尾俊太郎を、熊川は指名したのか。
そこには、
熊川が考える、バレエとの対峙のしかたが見える。
「一生懸命努力する人を見ていると、応援したくなる」と熊川は言った。
「(監督にはダンサーの)好き嫌いは、当然ありますよ」とも言っている。
私は、ファンクラブに入っているが
最近のファンクラブの会報で、ちょっと気になる変化があった。
芸術監督になって様々な振付をするようになってから、
熊川はずいぶん「オトナ」の発言をするようになり、
若かりしころよくやっていたような、ヤンチャ発言は影をひそめていたのだけれど、
「ぶっちゃけ」な文章を敢えて載せるようになったのだ。
Kバレエで期待されていた若手メンバーの退団が続いたころだった。
私は、退団後の彼らの活動も追っているけれど、
それらは熊川氏が彼らに臨んだ「もっと高みへ」とは異なるものが多い。
ライフスタイルに対する考え方の違いだろう。
熊川氏は、知らない人にはチャラチャラ見えるかもしれないけれど、
とてもストイックにバレエと向き合う人だ。
自分の掲げる理想に届くまで、自分に妥協しない。それが、熊川だ。
昔は、そうと自覚しないまま。
今は、しっかり自覚して、彼は人生をすべて、バレエに捧げている。
そして、プロのバレエダンサーは、そうあるべきだ、と思っている。
少なくとも、「一流」「超一流」それも「世界標準」を目指すのであれば。
彼が持てなかった大きな体躯、長い手足。
それがなかったために、一体自分はどれくらい人より努力しなければならなかったか。
だから、
生まれつき、それを有している人が自分と同じくらい努力すれば、
もっともっと高みに到達できるはずではないか。
なぜ、それをやらない?! 君らにはそれらが備わっているというのに!?
そんな苛立ちが、
彼の文章から読み取れた気がした。
翻って、宮尾俊太郎。
バレエを始めたのが14歳。
10歳と、普通より遅めの熊川より、なお遅い。
はっきり言って、彼より跳べる人、彼より回れる人多数。
それでも、バレエと愚直に向き合い、師匠の背中を追い続け、今に至る。
熊川哲也を追いかけて追いかけて走り続けてきた彼は、
いつのまにか熊川とは異なる自分らしいバレエを身に着け始めた。
1ミリずつでも進化するバレエダンサー、宮尾俊太郎。
師匠の熊川と弟子の宮尾は、そのバレエスタイルは異なるけれど、
バレエを愛し抜くその精神性を、彼は師匠から正統に受け継いだ。
そう師匠が感じたからこそ、
「ボレロ」免許皆伝となったわけだ。
その愚直さの中の崇高さを、皆に感じてほしいと思う。

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