この前「ラプソディ」でさんざんなことを書いてしまったので、
私のこと怒っている熊川ファン、Kバレエファンもいるだろうな、と思いつつ、
「そんなことない、あなたが見てたときだけ、調子悪かったんだよ、きっと」と
誰かに言ってもらいたいのは、実は当の私なわけで。
だからこそ、
今回の「ドン・キホーテ」はある意味、自分の心と一騎打ち、みたいな気持ちがあった。
あの人の、いちばん大切にしている演目だから。
公演初日から、あちこちで聞こえてくる「やっぱり、Kのドンキは最高!」の声。
そうなのか? やっぱり、やっぱりそうなのか!
やってくれるよね?
私を、コーフンの渦に巻き込んでくれるよね?
私が選んだのは、熊川/荒井/宮尾の日。
最近、私、宮尾さんに注目なんで。
その宮尾さんのエスパーダ、よかったです。
スケール大きくて。男伊達で。硬派で。マントのさばき方も切れがあって。
彼は、これからキャシディのようなダンサーになっていくんだな、と思った。
彼の持ち味は、これから花開いていくだろうと思った。
荒井さんは、ちょっと不調だったかな。
全体の出来は悪くなかったけど、フィニッシュで2度もふらついた。
あの人が、明らかなふらつきを見せるなんて、あまりない。
そして、熊川は…。
よく跳び、よく回り、よく演じておりました。
ほかのソリストたち、コールドたちもはつらつとして、
だから、とっても楽しかったし、出来のよい舞台だったと思います。
それなのに。
この冷静沈着な私の書き方は何なんだ??
いつもなら、
あふれるほどの感動を、その零れ落ちる感動のほとばしりの一滴一滴を、
すべて逃さず書留めておこうとやっきになるのに……。
つまりこれは
彼の問題だけでなく、
私の問題でもあるのだ。
私が彼の何を愛し、
彼に何を求めてきたかの問題。
これまではいつでも、どんなときでも、
私がそれまで知らなかった魅力を、彼は私に見せてくれていた。
私が「いけない」と思いつつ150%くらい期待しながら見ていると、
なんと200%くらい予想を裏切る驚愕のパフォーマンスを見せてくれた。
ダンスであったり、振り付けであったり、舞台装置であったり、音楽であったり、
解釈であったり、衣装であったり、その発露はいろいろだったけど。
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たとえば私が山登りで、
熊川哲也という、でっかい山を登っていたとする。
姿形もよく、
リズミカルに続く道も楽しく、
時に湧水が流れ、草花が茂り、
快晴の夏空にも映え、夕陽に赤く染まるときもよし、
雪化粧も素晴らしく、行く手を阻む岩さえ心に残る。
必死で登って一つ峠を越えると、
また違った山の表情が見えてきて、その山の奥深い魅力に圧倒され、
「もっと登りたい」「極めたい」と、山登りの意欲をかきたてる。
そして、登って、登って、登って…。
また一つ、登り切ったのだから、
また一つ、違う顔を発見できるのではないか?
…それを期待していた私。
でも、その姿に、私は「未知のもの」を感じなかった。
もう道は降っているのか?
それとももう一度、上っていくのか?
下りは下りで、違う表情を味わうことができる。そのはずではないのか?
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「違うもの」とは、「再演だから変えて演じろ」といったレベルの話ではない。
逆に今回は、振り付けが変わっていてさみしかった部分もあった。
ジプシーの野営地では、ジプシーと一緒に踊らなかったな。
体力の関係なんだろか。大好きな見せ場だったんだけど。
若いときと同じように踊れなくてもいい。
その分、円熟したからこそ見せる輝きがほしかったのかもしれない。
バジルという役に「円熟」を求めてはいけないのはわかっているけれど。
私が見たバジルは、必死で昔のように踊ろうとしていた感じがしたのだ。
最近、私が彼の舞台を見ていて首をかしげてしまうのは、
そんな「必死な熊川」の顔が、役柄の顔より前に出てしまうときなのだ。
私は「必死こいて跳んでますっ!!」というのではなく、
まだまだ余力を残して8割がたの力で舞いながら、
それでも人より高く跳んじゃうような彼のおちょくり気味のパフォーマンスが好きだ。
ほんとは「必死こいて」跳んでいたとしても、
それを観客に見せないところが好きだった。
はぁはぁ大きく息をしたいのに、それをぐっと噛み殺し、
深くお辞儀することで見せない工夫をしていたイイカッコしいのところが。
私はこれからも熊川が好きだし、Kを応援する。
でも、
やはり自分の中で、一つの時代は大きな峠を越えたと思った。
彼の中で、ではなく、私の人生の中で。
それでも、私は願っている。
次の峠に立ったときは、また新たな姿を見せてくれることを。
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Kバレエ「ドン・キホーテ」@オーチャードホール
- 熊川哲也とKバレエカンパニー
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