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2011年を振り返って

今年は、3月11日に東日本大震災が発生しました。
地震や津波による被害にとどまらず、
直後から福島第一原発でのメルトダウン事故もあり、
現在も放射能が放出していて、収束の目途がつきません。
日本人にとって、東日本に暮らしている人間にとっては特に、
自分の生き方、暮らし方、考え方を大きく揺さぶられた年でした。
計画停電や節電、宴会自粛など
なくもがなの政策や行動心理も重なって、
「観劇」あるいは「演劇をやる」ということ自体も
その意義が問われるような部分がありました。
多くのアーティスト・クリエーターが、考え、迷い、そして思い至ったこと。
芸術は、コメも電気も生み出さない。
芸術は、道路も船も作れない。
芸術は、ガレキを片付けることはできない。
でも、生きていくのに必要だ。
それができる環境にあることが、幸せということだ。
人の心は、楽しみなしには生きていけない。
だからこそ、
娯楽を生み出す自分をもっと大事にしよう。
美しい、面白い、素晴らしいと思うものを生み出そう。
真剣に、芸術に向き合おう。
本当に生み出したい芸術と、取り組もう。
今年、私は
歌舞伎を31本、演劇を32本、ミュージカルを21本、バレエを5本、
落語の1本を含め、90本の舞台を観ました。
映画は試写19本、映画15本で35本です。
ミュージカルの21本のうち、11本はブロードウェイで見ました。
試写の19本のうち、10本は10月の東京国際映画祭です。
3月~5月、日本での観劇は3ヶ月で10本にしかなりません。
3月中にチケットを買っていた舞台が取りやめとなったとき、
惜しいと思うより、ほっとしたことを覚えています。
とても観劇するような気持ちにはなれなかったのです。
でも、自分から「観にいくのをやめる」という決断ができるか、
そこは難しかった。
だから、中止してくれて、助かったというのが本心だったと思います。
その後、少しずつ心が強くなって、
私はまた足しげく劇場に通うようになりました。
しかし、
多くの劇団が、
今も興業的に不遇な環境を強いられていると思います。
それでも舞台を作り続けている人々に、心から敬意を表します。
今年は、遠征の多い年でした。
歌舞伎も東京の新橋演舞場、国立劇場、浅草公会堂、平成中村座のほか、
大阪の松竹座、名古屋の御園座、京都の南座にまいりました。
旅行での発見も多かったです。
唐津の松や海、京都の緑や紅葉、奈良で聞いたウグイスの声など、
自然の素晴らしさもさることながら、
その自然と対峙して人間の作った仏像や大伽藍、神社などにも
改めて思いが至りました。
3月以降は特に、行った先々でよく拝むようになりました。
大仏の大きさや千手観音の千の手に、人々が求めたものを、実感しました。
山の上の寺にあって、ここから下界を見守っていてほしいと願いました。
3月のNYでは、
観劇ごとに「募金」が叫ばれていて、
そのなかに日本の震災のことも入っていて、
私は自分が募金されるほうなんだという初めての経験に
本当に動揺したし、励まされたし、心動かされました。
感謝の気持ちでいっぱいです。
そして、私も必ず1ドルずつ募金をしました。
震災の爪あとはあまりにも大きすぎ、
いまだに手付かずのことがたくさんあります。
お亡くなりになった方、行方不明の方、そういう家族や知人を抱えている方、
家をなくした方、仕事をなくした方、故郷を壊された方、汚された方、
みなさんにお見舞い申し上げます。
放射能汚染に関しては、
現在の汚染状況に差はいろいろありますが、
これからは日本全体が背負っていかねばならない重すぎる問題です。
地球規模での汚染なのですから。
おそらく、もう「本格的な解決」はないのではないか。
「本格的な解決」のないなかで、これからいかに生きていくか。
それが、日本人1人ひとりに問われているのだと思います。
いかに生きていくか。
私にとっては家族と舞台と書くこと、それが大切。
そして
「生きること」そのものが大切。
自分らしく生きるために、
一生懸命生きていこう、と誓う年の瀬です。

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