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「オペラ・ド・マランドロ」

演劇が好き、と言っているわりに
恥ずかしながら、見てない有名作品が多い。
たとえば「三文オペラ」。
いかなるバージョンも、未見。
そんな私が夕べ観たのが「オペラ・ド・マランドロ」。
休憩中にパンフレットを買って初めて知る。
これって、
「三文オペラ」のブラジル版なんですって。
というわけで、
私の得意技(?)の「くらべて観る」ではなく、
ただ純粋に、
「オペラ・ド・マランドロ」という作品を
楽しんでまいりました。
「楽しんできた」という言葉が
今の自分の気持ちにとてもしっくり来る。
あらすじはこう。
マックス(別所哲也)という
世渡りがうまく女に目がない色男がいて、
密輸で荒稼ぎしながら娼婦マルゴ(マルシア)をはらませ、
大金持ちの娘ルー(石川梨華)をたぶらかし、
自分を捕まえる側・警察の男タイガー(石井一孝)とは幼なじみで、
あちこちにいい顔をしながら飄々と生きている。
ウソかホントかわからないその「いい顔」だが、
どうしても憎めない、そんなマックスは親分肌。
バハバス(東山義久)以下、子分たちのことは「家族より大事に」と考え、
だから子分からも裏切られるはずはない、と思い込んでいる。
しかし、
すむ世界の違うルーという娘と結婚することによって、
このいわくいいがたい「あ・うん」の世界は崩れていく。
外の世界も激動の時代に突入。
1941年親ナチ政権誕生化のブラジルで、
それも一日で物価が10倍にも100倍にもなってしまうような
ハイパーインフレ経済下、
賄賂や癒着が横行し、裏社会が力を持ち、
お札は日に日に紙切れになっていく。
ナチス・ドイツがスターリングラードの戦いに敗れたことは、
遠く離れた南アメリカの政権にも影響、
「体制」も「価値観」もがらがらと崩れていく。
誰もかれも身を守り、生き残るために必死で、
泥棒は警官になるは、ドイツ系資本家は「ユダヤ人」になるは、
カオス、カオス、カオス。
投獄されたマックスの、運命やいかに??
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一応ストーリーはあるものの、
一つひとつの場面にみなぎる生命力を浴びる舞台である。
ラテンの風に吹かれ、
うさんくさい別所哲也と
カッコいいのかひょうきんなのかわからない石井一孝と、
おもいっきりジェラシーのかたまりのマルシアと、
そのマルシアを「おばさん」呼ばわりする石川梨華と、
というふうに、役者を見る、という方が正しい。
金持ち夫人ながら遣り手婆の雰囲気を見事にかもす杜けやきとか、
触れたらケガをしそうな鋭さでめちゃめちゃカッコいい東山義久とか、
袖なしで筋肉モリモリの二の腕強調するおカマちゃんの田中ロウマとか、
見所満載である。
最後に本物のサンバチームも登場、
ストーリーも何もかも、うやむやになってしまうのも
かえって気持ちがいいくらいだ。
その意味で、
この舞台は非常にうまい作りになっている。
シコ・ブアルの楽曲は聴くには心地よいが歌うのはかなり高度で、
ラテン音楽のリズムに乗せるセンスも必要だし、
はっきり言って冒頭は「大丈夫かな」という不安もあった。
しかし、
途中で石井一孝が登場、ソロを一発ぶち上げると空気が引き締まる。
この男、タダモノではない。
絶対以前より上手くなってる。声量といい声の表情といい、脱帽。
「ブラジルだから」の安易なキャスティングかと思えたマルシアも、
陽気なサンバより切々と歌い上げる二幕冒頭で本領発揮、
半音の微妙な節回しの変化も正確にとらえてさすがの実力をみせつける。
いつも感じることだが、
別所はフシギな力を持っている俳優だ。
ラテン男のちゃらんぽらんさと太っ腹のノリを体現できる数少ない日本人ではないだろうか。
ワルながら人の好さがにじみ出る。
歌のうまさでは石井のほか、東山義久が出色。
この人、大学入ってからダンスやり出して、
「エリザベート」のトートダンサーになってミュージカルの魅力を感じ、
という遅咲きというか、スタートの遅い人だけど、
ものすごくいい声してます。2005年の「レミゼ」アンジョルラスも経験。
今回は自分が率いる「DIAMOND☆DOGS」のメンバーが総出演で、
彼らのダンスも見所の一つ。
白いスーツとパナマ帽で踊る男たちのダンスは
文句なくカッコいいです。
「毎回『事件』が起きるんです」とカーテンコールで話していたが、
当夜の『事件』はかなりタイヘンだった。
牢獄の鉄格子に手錠で鎖につながれたマックスが
面会にきたマルゴーに「逃がしてくれ」とあのてこのてで懇願する場面。
気持ちの入った激しい身振りが災いして、なんと○○がはずれてしまう。
「おー! はずれた! はずれたよ!」
別所マックス、驚きそして「やった!」と笑顔。
ハプニングをそのまま劇に入れてしまった。大爆笑。
マルシアが「お腹の子は私一人で育てるから」という
けっこうシリアスなセリフをいうタイミングでこれだ。
「よし、これで自由だ! 一緒に逃げよう!」と
あらすじ変えちゃう別所にマルシア、
一呼吸あって、
「バハバス、バハバス!」
逃がさないように大声で看守を呼ぶ。必死のアドリブに観客拍手!。
東山バハバス、出番じゃないのに呼び出され、
マックスをおさえつけ手錠のカギをかけようとするものの、
なかなかうまくいかない。
ようやっと処理、「すまん、カギかけるのわすれた」とかなんとかいって退場。
もうマルシアも笑いがとまらない。
観客に知られないように後ろを向いても、肩がヒクヒク震えてる。
「おい、どうしたんだ。泣いてるのか?」と別所もチャチャ入れる。
そこからもう一回
「お腹の子は…」のシリアス場面に雰囲気を戻した二人の実力に感服だ。
マックスの言いそうなことを並べ立てて本筋に戻す別所。
「あんたが悪いのよ、バカ!」とか
本筋なのか、今のハプニングを責めてるのか、
素と演技との隙間を通り抜けるようにしてちゃんとラブストーリーにたどり着く。
「そんなに動いたらおなかの子に悪い…」という女たらしのセリフを
別所マックスまたまた「かお、おなか…」ととちるが、
まあぎりぎりセーフかなー、と観客が許してあげてもマルシアは許さず、
「今、顔が悪いっていったー」と泣いてみせたり、
ほんとに掛け合いがノリノリで、
ああ、ライブで生きられる彼らはすごいんだな、と改めて感動しました。
Don’t think, but feel. Just feel.
そんな言葉が浮かんだ。
演劇とは、お祭り。
演劇とは、すべてを浄化する一服の薬なんだ。
「オペラ・ド・マランドロ」は東京・池袋の東京芸術劇場で8月2日まで。(*)
芸術監督に就任した野田秀樹のでっかい幕がお出迎えです。
アトリウムでは野田が夢の遊眠社時代に手がけた「ゼンダ城の虜」の舞台装置や
「野田版国姓爺合戦」の緞帳など、
いろいろな展示があるので、少し時間に余裕をもって行くと楽しいかも。
私は昨日京葉線のストップの影響で、開演ぎりぎりだったため、
ちゃんと見学できず。
今度「天翔る…」に行くときは、ちゃんと観ようと思います。
(*)引き続き名古屋、大阪、仙台公演があります。

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