岡幸二郎のアンジョルラスを一度聞きたくて、行ってまいりました。
噂に違わぬ、素晴らしさ。
歌声が、というより、存在そのものが、アンジョルラス。
彼は当時の「民衆の正義」そのものを体現していたはず。
「正義」の美しさ、勇ましさ、頼もしさ、力強さ、潔さ。
そして、その「正しさ」ゆえに残酷でもあり、
一人ひとりが感じたいささやかな幸せや、一つしかないその人の命を
容赦なく捧げろと求めてくるところまで。
そして、
そうはいっても友人マリウスの傷心に寄り添い、
ライバルにして同士であるグランテールの
人の弱さをさらけ出すやり方に反駁しながらも受け入れもする、
その若さゆえの強さともろさを。
ベテラン岡を尊敬と憧れの目でみつめ集まる若手アンサンブルは、
アンジョを囲む学生たちとまったく同じ。
今、岡はアンジョに勝るとも劣らない、最高のリーダーだと思う。
完璧。
幕間に、「ほんと、神」っていってる人がいた。
同感すぎる。
もう一人、完璧だったのが石川禅のマリウス。
いや~、若い!
ほんとに若いんじゃない、若さを演じる巧みさがすごい!
アンジョルラスに比べると、キャラが弱いし、
どうしてコゼットもエポニーヌもマリウスがいいんだろう?って思うことある。
でも、
石川マリウスは、素敵だった。
まっすぐなんだもん。
アンジョルラスが「正義」と「大局」の具現化だとすれば、
マリウスは「個人の幸せ」追求型だ。
戦争よりも恋が大事、それが「いくじなし」や「軟弱」ではなく、
人間としてもしかしたらアンジョより上?って思わせるところがハンパない。
石川マリウスは一つひとつのセリフにまつわる感情を大事にしている。
その感情がわかる演技をしている。
そして、何より声が美しい。
オペラでは、声が美しい人は、心も顔も美しいことになっている。
あの声だからこそ、マリウスはみんなに好かれて当然だ、という説得力になる。
エポニーヌは…もう、何をかいわんや。
島田歌穂の「オンマイオウン」で、初めて歌詞の意味がわかったという話は、
前に書いたけれど、
オーラを消して、民衆の一人のようにそっと舞台に現れたときから、
島田エポはずっと少年のよう。
何歳になっても、島田歌穂は、ガラスのような少女エポニーヌそのもの。
決して心を叫ばない。
諦めのなかで生きている。
その諦めのなかで歌う「オンマイオウン」は、
彼女がこの世に残した、たった一つの輝き。
それも
夜のしじまの中で、自分しか聞いていない独り言の、輝き。
そして今回、
もっとも心打たれたのは、ジャベールだったかも。
鹿賀丈史ジャベ、ラストは圧巻。
今井清隆のジャンバルジャンとの掛け合いのバランスも見事だったけど、
バルジャンの「情け」に触れて、
今までの自分の人生観が崩れていくことへの驚愕、戸惑いが
こんなに胸をうつとは。
なんで最後に自殺しちゃうのかっていうところが、
ただただ「自分の決めたルールに自分も従う」みたいに見えるのが常なのに。
もっと人間的で、
もっと葛藤があって、
ほんとは死にたくないっていう逡巡まで含めて、ジャベールが奥深い!
アンジョとジャベールは特に硬質な人物だけに、
演じる人によって引き出される魅力の幅が全然違うと思った。
ここまでは、もう文句なしに「スペシャル」でした。
以下、ちょっと辛口。
岩崎宏美。
私のイメージのファンテーヌとは、ちょっと違ったな。
一つは、やっぱり歳月に女は勝てない部分があるということ。
もう一つは、彼女はほんとの意味で、ミュージカル歌手じゃないこと。
ささやくような歌声は天下一品で、さすが歌手って思うけど、
朗々と歌い上げるには、声量も声質も足りない。
足りないから、そこに付け加えられるべき感情も中途半端になってしまう。
石川マリウスや岡アンジョに問答無用な存在感が、
一にも二にも、「声」で作られているのと対照的だ。
ただし、ジャベールの臨終に現れた岩崎ファンテは素晴らしかった。
神の言葉を告げにきた、マリア様のようなファンテ。
これが、岩崎宏美をファンテにした理由だな、と思った。
テナルディエ夫婦の斉藤晴彦と鳳蘭は……。
この二人はもう声が潰れていて、本当に聞きにくかったです。
私はツレちゃんが大好きだし、彼女のCOCOなんか、ほんとによかったけど、
今回はどうなんだろ。
もはや音域が合ってないということだろうか。
岩崎宏美の場合は、声より外見的な意味が強かったけど、
鳳蘭の場合は、外見は若々しいのに、声が……。
斉藤さんは、ほんとの歌手じゃないから、少しは割り引いてみてますが、
歌い方がいかにもシロウトっぽくて、間が持たないことがありました。
ミュージカルは、やっぱり「歌」ですね。
コゼットは、一人若手の神田沙也加。
か細い声です。
がんばってますが、ちょっと物足りない。
でも、ハモるのにはいい声。
和声を聞かせる重唱では、ほんとに心地よかった。
でも
「マリウスの運命の人」たりうるオーラは見られなかった。
マリウスの腕の中で死んでいくエポニーヌのほうが、
ずーーーーっとマリウスの心をつかんでいるように思っちゃうわけで。
せっかく石川さんが
「ボクのコゼーーーット!」っていうハートマークを撒き散らしているのだから、
それにふさわしい突き抜けたコゼットになってほしかったな。
作品としての「レミゼ」は、
序盤がちょっと駆け足なので、そこが弱いところかな。
林アキラのミリアム神父の歌声はよかったけど、
そういうことより場面がめまぐるしくって。
どの場面も必要だし、
もっといえば、やってない部分もやってほしいくらいだから
しかたないんだけどね。
だから、ファンテとテナルディエ夫婦には、
もうちょっとがんばってもらいたかったです。
それにしても、
カーテンコール、予想外に長かったです。
みんな、心から拍手していた。
オールスタンディングになってから5回以上やってた。
帝劇はけっこう淡白な感じだけど、
スペシャルキャストのときは例外? いつもそうなのかな~。
とにかく!
楽しかったです。酔いました。
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「レ・ミゼラブル」スペシャルキャスト
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