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宝塚月組「エリザベート」

ルキーニ、エリザベス、トート。
「エリザベート」にあって要となる三役を
すべて経験した世界でただ一人の役者、瀬奈じゅん。
エリザベートを知り尽くした瀬奈がつくった「トート」は、
実に魅力的だった。
さすが、日本での「エリザベート」本家本元の宝塚である。
私は先に東宝(山口/涼風)版を見ていることもあり、
どうしてもそちらを基準に比べてしまうのだが、
圧倒的な歌の上手さと存在感の山口トートと比べても、
瀬奈のトートは見劣りすることがなかった。
山口トートはよく「魔王」という言われ方をする。
「死」「黄泉の帝王」として君臨する絶対的な権力であり、
エリザベートへの恋は、
ともすれば横恋慕的な匂いがする。
俗世で幸せになろうとするエリザベートとフランツ皇帝を尻目に
「召す」といったら「召す」っていう感じ。
「生きたお前に愛されたいのだ」といって簡単に命を奪わないとはいえ、
それは「恋のゲーム」にも似て
自分に何の関心もない娘を振り向かせてやる、という強引さが見える。
しかし、
瀬奈のトートは違う。
二人はベターハーフに出会ったのだ。
トートがエリザベートに他の「人間」と違うものを感じたように、
エリザベートにとってもまた、トートこそが本当の愛の相手。
ただ、
まだ気がつかない。
幼すぎるエリザベートは、自分を知らない。
だから瀬奈トートは、時々エリザのもとを訪れる。
フランツとの結婚生活がうまくいかないのは、
努力不足ではなく、すれ違いでもなく、
最初から「相手」が違ったんだよ、と
それをエリザが自分で気づくのを辛抱強く待つのである。
自分らしく生きられず「どうすればいいの?」と自問するエリザに
「死ねばいいのさ」と目を輝かせ、時機の到来を喜ぶトート。
そのときはまだ、
エリザベートの内なる「生きて幸せになりたい」という望みが勝つ。
しかし、
愛息ルドルフの死により自暴自棄に「死なせて」というエリザに対しては
トートは「死は逃げ道ではない」と厳しく拒絶する。
気づいてほしいのだ。
自分とともにいることこそが、エリザベートの幸せだ、ということに。
名曲「夜のボート」をフランツとともに歌い上げたエリザベートが、
行き着く先にもフランツとの平穏はない、と自覚して初めて、
彼女の命を奪うことを決断する。
俗世に何の未練もなくなったエリザベートが
すでに年齢を重ねたであろうエリザベートが
若く美しく、
トートが初めて出会ったころのエリザベートの面影を得て黄泉の国によみがえり、
トートに熱いまなざしを送りながら寄りそうラストシーンは、
この二つの魂が、結ばれるべくして結ばれた
至福のハッピーエンドを感じさせる。
「エリザベート」がトートの物語であったことを
深く理解した一夜だった。
月組はメンバーの入れ替えが激しい時期にあたり、
エリザベートの凪七瑠海は、
瀬奈に比べるとかなり後輩でしかも男役だが、
オーディションでタイトル・ロールを獲得した。
かわいらしさは出ているし、男役とは思えない高音が美しいものの、
歌は全般的にまだこなれていない。
ゾフィー役の城咲あいも、「姑」を演ずるには若すぎて気の毒。
ルドルフ役はトリプル・キャストで、
私が観た日は遼河はるひ。
声量の豊かさ、ソロの歌いっぷりの確かさに可能性が光る。
演技がこなれてくれば、トップへの道が開けるのでは?
フランツ役の霧矢大夢もルキーニなどの経験があり、
落ち着いた演技と安定した歌声で場を引き締める。
エリザベートの父・マックスを演じた越乃リュウも上手かった。
ルキーニは龍真咲。
表情・歌に工夫があって存在感はあるものの、
セリフにクセをもたせすぎて聞き取りにくくバタバタしすぎた感あり。
風体が小者すぎる。
もう少し、体の奥に謎を抱いた様子がほしかった。
黒天使たちの踊りは抜群。
この美しさは、東宝では味わえなかった。
さすが、宝塚である。
それにしても、
瀬奈のトートにやられた。
この人が「女」であることなど、まったく感じられない。
異界にあって魂の響き合いを感じ、
その女性を辛抱強く、自分らしく愛しぬいた
誇り高い男。
エリザベートやルドルフなど、
獲物をとらえたときの支配的なまなざしもしびれるが、
常に無表情でニヒルなトートが時々見せる、
大きく見開いた目、
悪魔的な笑い、
冷徹なトートが
一瞬にして暴力的になるその変化の激しさ、
逆に、
最後にエリザベートを抱きしめたときに思わず表れる
悪魔が見せてはならないような昇天至福の表情……。
瀬奈トートの「エリザベート」は8月9日まで東京宝塚劇場にて。
チケット入手は困難をきわめる、とのことだが、
チャンスがあれば、ぜひ。

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