男性陣は全員シングルキャストなので、
昼・夜と2回見たことになる。
今までも何度か書いている塩坪和馬(4期)は、
まず声量があり、表情・動作にめりはりがあって
どんな場面でも目立つし、安心して見ていられた。
特にコミカルな部分については言うことなしだ。
でも、
朗々とまっすぐに歌い上げる部分には、まだ改善の余地がある。
そういうパートは
音楽大学を卒業してからTMAに入った横山達夫(4期)に軍配。
「シラノ」の「われらガスコン」や
「レ・ミゼラブル」の「民衆の歌」(フィイのパート)は、惚れ惚れした。
今から「誰々風」と決め付けるのはよくないけれど、
塩坪は市村的、横山は田代的といえよう。
対して先輩格の岩田国大(3期)。
彼は声量もあり、安定した歌い方をする。
「ローマの休日」から「それが人生」(見たのは夜公のみ)は、
表情豊かで演技も細やか、声も太くて素晴らしかった。
しかし、
他の歌はいまひとつ歌が心にしみこんでこない。
歌い方が一辺倒なためだと思う。
情熱的に歌い上げるだけなので、歌詞の持つ意味が伝わらないのだ。
たとえば「屋根の上のヴァイオリン弾き」の「金持ちなら」。
金持ちなら、「妻が太った指で下男に指図」して「着ているものはクジャクのよう」だ、と
楽しそうにニヤニヤしながら歌うのだが、
どう聞いてもセンスのない太っちょ奥さんを揶揄しているとしか思えない。
でも違うよね。
苦労をかけているゴールデを下男を使う身分にしてあげたい、
クジャクのように色とりどりにきらきらした服を着せてあげたい。
「太った指」は、「美しい」=「羊が丸々太っている」という
原初的な意味でとらえるべきなのだ。
テヴィエの、ゴールデへの愛とねぎらいがぎっしりつまったラブソング。
夢また夢の空想に酔い痴れるテヴィエの少年のようなワクワク感がほしかったが、
「太った指」「下男」「クジャク」にこめられたそれぞれの極楽イメージが
観客には伝わってこなかった。
想像力をMAXにして、曲の中に入り込んでもらいたい。
石井一彰(1期)は、すでにあちこちの舞台で声がかかっている。
抑制の利いたソフトな声、丁寧な歌い方は好感が持てる。
クセがないので、どんな舞台にも対応できるだろう。
ただ、もう少し迫力があり、押し出しの強い演技ができれば、と思う。
アンサンブルからプリンシパルへ。
「うまい」だけではなく「石井一彰」ではなくては出せない味がほしい。
木内健人(3期)もよかった。
表情が豊かで、「誰々風」でいえば、井上芳雄をほうふつとさせた。
卒業公演でマリウスをやった斉藤航騎(4期)は、
のびやかな声がとても魅力的だが、力が安定していない。
一日に昼ゲネ、昼公、夜公と3回出演して、
私は昼ゲネと夜公を見たが、
昼ゲネのほうがずっと声が出ていた。
時折目が泳ぐのも気になる。
もっと自分に自信をもって、自分の世界に浸れるよう、
実力をつけていってほしいと思う。
及川心太(1期)は、絶不調で、声が細かった。
漏れ聞くところによると、
体調を崩して前日まで本当に「声が出ない」状態だったという。
しかし言い訳が利かないのがこの世界。
舞台に立ったら、40度の熱があっても一流の演技をしてこそプロだ。
しかし、
私が気になったのは、「声が細かった」ことより「歌い方」のほう。
「ラ・マンチャの男」から「見果てぬ夢」は、
夢見心地で歌う歌ではない。
「To dream the impossible dream,/to reach the unreachable star…」と
絶対に無理、と言われていることをやろうとする男の歌である。
そんな無理なことに挑戦しようとする自分のなかの、
「無理だよな」という気持ち、「できるんだろうか」という気持ち、
そういう心の揺らぎもしっかり描かれなければ
「This is my quest」という決意にまで高まっていかない。
歌詞は日本語で歌われているが、いずれにしても曲への理解が不足していた。
1ヶ月ない練習期間の中でどこまでできたか、という意味では、
私はないものねだりをしているのかもしれない。
でも、観客とはそういうものだ。
「この人は学校卒業したばかりだから」「練習時間が短かったから」
「初舞台だから」「チケットが安いから」
だから割り引いて考えるものではない。
最近のミュージカルファンは非常に耳が肥えている。
一つの作品を何100回も見ている人も多い。
そういう観客の前で
「この歌、1ヶ月前まで全然知りませんでした」という歌い方は、
どんな状況であっても許されない。
多くのファンは、俳優につく。
「あの人が出演する日に行きたい」と思わせる魅力を、
培っていってほしいと思う。
上手いだけでは生き残れない。
舞台とは、残酷な世界なのである。
調子に乗って4回も続けて書いてしまいました。
私はTMAが大好き!
若さがもつ可能性を、本当にうらやましく思います。
これから10年続けたって、まだ30歳くらいなんだから。
そこから10年続けたって、まだまだ40歳くらいなんだから。
100回挫折してもまた立ち上がれるだけの時間を
彼らは持っている。
本当にうらやましいです。
早いうちに何かを目指し、基礎ができていて、
場を与えられているということの幸せを
どうぞ無駄にしないでくださいね!
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TMA Extra@シアタークリエ(4)今日でおしまい
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