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TMA Extra公演@シアタークリエ(3)

新旧織り交ぜた82曲のミュージカル曲を聞いて
改めてわかったことある。
それは、
「昔の作品ほど難しい」という事実。
単純なメロディラインで聞かせる、というのは、
本当に力のある人でなければできないことなのだ。

「サウンド・オブ・ミュージック」
を歌うジュリー・アンドリュースが
いかに素晴らしい歌い方をしているか、
「屋根の上のヴァイオリン弾き」
「南太平洋」「バリ・ハイ」も、
ちょっとでも気を抜いたら、
それこそ気の抜けたサイダーになってしまう。
ピアニッシモであればあるほどいい意味での緊張が必要だ。
逆にフォルテでは絶対にがなりたてない抑制を利かせなければ。
そういう歌を、なんでもないかのように歌いこなすのが、
今をときめくスターたちなのだ。
市村さん然り、山口さん然り、涼風さん然り…。
長く続く一音に、すべての魅力を入れ込む術を知っている。
潤いがあり、哀愁を帯び、
同じ音程でありながら最初と最後で
ときめきが絶望に、悲しみが希望にと変化さえする。
こういう人たちの「凄さ」を、改めて知る機会にもなった。
さて、
総論ばかりが続いてしまったけれど、
当の出演者たちはどうだったか。
今回、
女性はTMA出身者ではない2名を除いてすべてダブルキャストだった。
だから同じ曲を、昼公演と夜公演で違う2人が歌う。
ほとんどが同じ演出だったなか、
まったく別ものという印象を受けた曲があった。
ひとつは、
「ラ・カージュ・オ・フォール」「マスカラ」
昼公演では高田実耶(2期)が女性のあくなき美の追求というか、
「もっと」きれいになりたい女性の歌として、歌った。
ところが夜公演では船田(正しくは「舟」扁に「公」)智香子(1期)が
どう見ても「美」とは無縁の女性を演じ、
場面はデフォルメにデフォルメを重ねたコメディに変化した。
高田も同じものを表現しようとしていたのかもしれない。
しかし高田が「歌って」いたのに対し、
船田はなんと、ちゃんとは歌わなかった!
きちんとしたメロディを拾わず、ビートだけを拾って言葉をのせた。
つまりラップのようなものである。
ミュージカルというより、喜劇役者のように場面を捉えたために、
前後とまったく異なる空間がそこに出来上がった。
船田は「ラブ・コール」からの1曲
「ちょうど良い時(Just in Time)」も歌っている。
塩坪和馬との掛け合いが見事。
文字通り「Just in Time」、音楽のツボを心得、
わざとタイミングをはずしたと思えば逆に先回りして待っているような、
小気味いいテンポを2人でつくりあげていた。
舞台勘のよさがなければ絶対できない芸当だ。
こちらでも、
船田は「歌う」にこだわっていない。
昨日書いた「語るように歌う」を換骨奪胎「歌うように語る」境地である。
彼女のようなミュージカル俳優は、ものすごく珍重されると思う。
ストレートプレイでもいけるだろう。
もう1曲、いずれ劣らぬ熱唱ながら、まったく歌い方が違ったのが
「シカゴ」からの1曲「オール・ザット・ジャズ」だった。
昼公演は天才少女・横岡沙季。
小ぶりながらダイナマイト・ボディから発せられる大声量。
飛びかかって襲ってこられそうな肉食系「オール・ザット・ジャズ」だ。
一方、夜公演の竹内晶美。
いきなり小声でウィスパー。
「あんたなんかに興味はないワ」とばかり、気だるく歌う。
体の動きも最小限だ。アンニュイで、不機嫌で、つまらなさそう。
しかし次第に気持ちが高ぶってくる。瞳がギラギラしてくる。
誰かに向かって、というより、自分自身への怒りやくぐもりの発露として、
彼女は怒涛のクライマックスに向かって歌い進む。
どちらも見事だった。
横岡の食らいつかれそうな迫力も捨てがたいが、
竹内の、宝塚の男役にも通じる洗練された世界は、本当に魅力的だった。
これが彼女たち自身の発案か、
それともスタッフの演出家は知らない。
いずれにせよ、彼女たちはものの3秒で観客を夢の世界に呼び込む力を
遺憾なく発揮したのだった。
明日は、男性陣について書く予定です。

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