「あわれ彼女は娼婦」は、2006年7月にシアターコクーンで上演され、
WOWOWでも放映されました。
蜷川幸雄演出、三上博史・深津絵里主演。原作はジョン・フォードです。
兄・妹の近親相姦という禁断の愛と、その残酷すぎる結末。
観る方も演る方も、神経張りつめっぱなしです。
妹・アナベラ役の深津絵里、最高です。
大竹しのぶと同じくらい、舞台に現れただけでオーラがある。
発声も、かわいい声だけどとてもはっきりしている。
兄・ジョヴァンニは、三上博史。狂気を演じさせたら、この人の右に出る人はいない。
声は、舞台人にしたら、けっこう高い。若い印象が残ります。
テレビドラマの人かと思っていた谷原章介も、アナベラを妻にする貴族ソランゾを好演。
よく声が通るし、体も大きくて舞台映えがします。
これからの活躍が楽しみになりました。
今、NHKの大河ドラマ『風林火山』でも、
還俗して一国の主となった今川義元の、深謀遠慮ぶりをうまく演じていますね。
でも、私のイチ押しは、高橋洋!
蜷川の舞台に彼は欠かせない存在ですが、特に、藤原竜也の『ハムレット』で演じた
ホレイショーは、格調の高さ、感情の表現、そして発声、どれをとっても逸品でした。
今回、いわゆる「頭の足りない金持ち」バーゲットを、吉本喜劇並みに派手に演じた高橋。
こんなにおバカなのに、ただの脇役なのに、絶対深津絵里とは結ばれないとわかっているのに、
なんで彼に感情移入しちゃうの?
どうして彼がかわいそうになっちゃうの?っていうくらい、見事な人物造形でした。
何と言う存在感!
この人のハムレットを、早く見たいものです。
今回、あまり基礎知識なく蜷川・三上・深津の組み合わせだけで行ってきたのですが、
舞台が始まってすぐ「あれ?これどこかで見た!」と思ったの。
それが、「 さらば美しき人」。
同じ原作の映画化だったんです。1971年イタリア映画。
テレビで見たんだけど、兄と妹との近親相姦というだけでなく、
最後、妹と結婚した男がそれを知ってすごい復讐を考える。
その結末のおぞましさというか、スプラッターというか、惨劇というか・・・。
若い時見たからね~。衝撃でした。
兄の子を妊娠しながらそれを隠すために嫁ぐ、嫁いでもなお関係を続ける、という女性の心理が
昔は理解できなかったんだけど、
今は兄の身勝手さの方を強く感じます。
自分の中で「この愛は何より美しい!美しいから正しい!」と思い込んでいく。
やむなく嫁いた妹なのに、「なんでそんなことができるのか」とか、自分のことしか考えてないの。
それに比べると、妹は心から兄を尊敬して、危機から救おうと考えてる。けなげ。
結末を知りながら舞台を見ていくのも、すごいスリルだと思いました。
蜷川の手腕としては、
「タイタス・アンドロニカス」では、あまりの残酷さを多少オブラートに包んだ演出で、
それはそれで心にしみたんですが、
今回はもう、行くところまで行ったという感があります。
また、三上博史が、演出のエキセントリックさと同居しながら
「これがボクの日常」といわんばかりに平然としているところが、もう・・・。
あんまり言うと、ネタばれになるから、このへんで。
妊婦は見ちゃダメ。
- 舞台
- 13 view
この記事へのコメントはありません。