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「ペリクリーズ」

蜷川作品を観るため、さいたまの劇場までよく足を運んだものだが、
「ペリクリーズ」には行かなかった。
よく知らないし。
モノの本や劇評によると、あちこちに話がとんで、
筋立てのはっきりしない、ご都合ハッピーエンドみたいだし。
田中裕子と内野聖陽って、蜷川常連じゃないし。
だいたい、「喜劇」は「悲劇」より、三文安い気がしていた。
2003年。
「ペリクリーズ」のチケット代をケチったのは、
人生最大の誤りだったと今悔やむ。
DVDを観て、心底悔やむ。ナマで観たかった!
田中裕子が美しい!!
当時でも50歳になりなんとする田中裕子が、
今、「タンスにゴン」で生活感溢れすぎる田中裕子が、
絶世の美女セ-イザを、14歳の生娘マリーナを、
天使のように演じるのである。神々しいのである。
それは、田中絹代につながる透明感。
マリーナに説教されて改心する女郎屋の客引きじゃなくても、
観客だって男も女も彼女に触れれば清清しくなる。
この説得力! 滑舌よし、声よし、品格よし。
DVDでアップになっても、顔もよし。いうことありません!
内野聖陽も若者から老人まで、しっかりと演じ分けていた。
しかし、
何といっても市村正親と白石加代子。
原作では「ゴワー」という詩人一人の配役を、
琵琶法師とその妻という乞食老人二人に託し、狂言回しをさせている。
最初から最後まで、二人のたしかな演技力がこの物語の手綱を引いて、
ちっとも飽きさせない。
国から国へ、陸から海へ。場所の移動も時間の飛躍も、
まったく違和感を感じさせないのである。
等身大の人形を浄瑠璃に似せて使う説明方式も、非常にわかりやすい。
市村の琵琶弾きが、またすごい。ほんとの琵琶法師みたい。
「弾くマネ」だけだったとしても見事と思ったのだが、
なんと、彼は琵琶も稽古を重ねて、ちゃんと弾いているというから、恐れ入る。
また、
この二人は他の役でもたくさんのシーンで登場し、舞台全体をひきしめていた。
最後の驚きは、この語りべによる筋まわしや、黙劇で説明という手法が、
すべてシェイクスピアの時代に書かれた通りにやっているという事実。
蓋し、シェイクスピアは偉大。すごすぎるぜ、ハゲのおっちゃん。
それにしても、これを「喜劇」というカテゴリーに入れた人に物申す!
たくさんの悲劇を乗り越えた人たちが、最後に手にした幸せ、っていう話だよ。
よかった、よかった、って、観客が涙する話だよ。
今、とても辛く苦しく、引き裂かれている人たちに、
希望を与える話だよ。
もし、「ペリクリーズ」を蜷川がやる前に、原作に出会っていたらなー。
私だったら、「とっちらかった喜劇」みたいなストーリー紹介、
絶対やらなかった。
ま、そう読めるのも、蜷川の素晴らしい演出で得たイメージがあるからかもしれないけどね。
この劇は、英国ナショナルシアターにも正式招待され、絶賛された。
イギリスに留学中この舞台を観たという知人は、
「日本人として、こんなに光栄だったことはない。
居並ぶシェイクスピアの作品の中でも、最もすばらしかった」と、
何年たっても遠い目をしながら、陶酔しきって語るのである。
うらやましー。
すべての俳優の力と日本の伝統芸能と、
蜷川の、古典から現代を射抜く眼が結集して作られた、名作中の名作。
DVD彩の国シェイクスピア・シリーズ NINAGAWA×SHAKESPEARE DVD-BOX【PCBE-51242】
昨日紹介した「十二夜」とセットになっています。
高いですが、観る価値あります。
*2006年10月2日のMixi日記をもとに書き直しています。

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