音楽雑誌の編集長として、
飛ぶ鳥を落とす勢いで一時代を駆け抜けた笹岡(吉田鋼太郎)も、50代。
3年前に妻めぐみを亡くし、半年前に洋子(一路真輝)と再婚している。
そのために、息子(松下洸平)は家出をしてしまったが。
元気のない雑誌業界に喝を入れるべく、
笹岡はロックのラブソングをフィーチャーした特別号編集に力を注ぐ。
部下である吉野(高橋由美子)と藤原(伊礼彼方)も彼に一緒だ。
「第二編集部」ともいわれる音楽資料だらけの笹岡邸で、
さっそく3人は編集会議を開始する。
本当は会社で行うはずだったが、笹岡が日程を失念したのだ。
そこへ、洋子の兄・義男(山崎)が来る。
今日は洋子と義男の母の入所日だった。
認知症の母親のことを、義男はずっと介護していた。
けたたましく電話が鳴る。
大学時代から笹岡を知っているライター・泉(市川しんぺー)だ。
「今日はインタビューの日だったでしょ!」
笹岡は編集会議だけでなく、外国人アーティストとのアポまで忘れていた。
泉は場所を知らせるためFAXで地図を送ってきたが、
笹岡はその地図を見てもなぜか理解できない。
最近、物忘れがひどくなった。
何かがおかしい。
笹岡の中から、一つ、また一つ、記憶がこぼれていく……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
G2演出、中島淳彦作の、若年性アルツハイマーをめぐる舞台である。
いいお芝居を見た、という味わいが残る。
一つ間違えば、理想の介護押し付け話か苦労美談に終わる題材を、
お涙頂戴ではなく、でもじーんとくる結末に仕上げている。
「前にアルツハイマーの取材をしたことがある」ライターを配したおかげで、
へんな説明セリフをほとんどすべて排し、進行を澱ませない。
愛する夫、父親、上司、先輩が壊れていく日々に苦悩しつつも、
決して「かつて」の笹岡へのリスペクトを失わない。
迷いもあるが、その一点がゆるがないから成り立つ物語である。
話のつくりもいいが、
俳優陣の実力とチームワークが半端なく素晴らしい。
一人ひとりの演技に「つくった」感じが見られず、非常に自然。
共感できるリアリティをそれぞれが生み出している。
ディスカッションを繰り返したという。
60年代、70年代の洋楽好きには、音楽をめぐる話題も楽しい。
音楽劇としての面は、一路、伊礼、高橋がさすがの歌声でリード、
門外漢の吉田、市川も奮起している。
ミュージカルミュージカルした「臭さ」を感じさせず、
ストレートプレイのよさと音楽のよさを融合させて心地よい。
音楽は、荻野清子。
G2とは「COCO」「Nine the Musical」でもタッグを組んだ。
三谷幸喜の「コンフィダント・絆」や「国民の映画」も手がける。
シンプルななかに、哀愁と温かさが漂う。
「リタルダンド」は
東京・渋谷のPARCO劇場で7月31日まで。
その後8月5日に名古屋アートピアホール、
8月6日、7日に大阪のシアターBRAVA。
清清しい笑いと涙の2時間。ぜひ。
- 舞台
- 84 view
この記事へのコメントはありません。