赤坂ACTシアターで上演中の「リチャード三世」、
行ってまいりました。
現代的な味付けが原作の邪魔になっておらず、
いのうえひでのり演出らしいキッチュな仕上がりで、
なかなか味のある舞台になっています。
携帯電話、テレビ、ノートパソコン、のようなものの使い方がうまい。
まずは携帯電話。
膨大なリチャード(古田新太)のセリフのうち、
独白は携帯電話への録音という形にしている。
背景に点在するモニター画面では
「今殺されたのは、どの人?」といった疑問を家系図で説明するツール、
あるときは、政治家の演説を中継するテレビ放送、
あるときは、牢獄の中を映す監視カメラとなる。
しかし、
どんなに斬新な演出よりも、
何より俳優陣の演技力が際立つ、良質の舞台だった。
特に脇をかためたベテラン勢。
リチャードの母であるヨーク公の未亡人・三田和代、
リチャードに殺されたヘンリー6世の未亡人・マーガレット役の銀粉蝶、
リチャードの長兄で病死する国王・エドワード四世の久保酎吉。
一つひとつのセリフにこめられた感情のこまやな動き。
オーバーアクションでも、わざとらしさを感じさせない。
長い長いセリフなのに、ちっとも飽きさせない。
よく響く声で、説得力100点満点だった。
セリフの切れという意味では、若手も力のあるところを見せた。
ケイツビー役の増沢望と殺し屋役の河野まさとは、
役作りのユニークさと正統派のセリフまわしとで、
存在感をアピール。
そして
最後の最後に出てきて、おいしいところをかっさらっていくリッチモンド伯は、
川久保拓司である。
カッコイイ!
文句なし。長い金髪と純白のマントに身を包み、
生まれながらの貴公子であり、勇敢な王者であり、正義の人。
このリッチモンド伯、
それまで全然出てこないのに、ラストで演説ぶってイギリスもらっちゃうという、
ある意味感情移入しにくいキャラクターなのだが、
今まで見たどんなリッチモンドより説得力に溢れていた。
まず声が抜群。
「ガラスの仮面」の桜小路くんもよかったが
またまた一つ壁を突き抜けた感あり。
これからの舞台に、大いに期待したい。
リッチモンド伯の父親・スタンリー卿の榎木孝明も
陰謀渦巻く時代の中で、賢明に、息を殺して生き延びようとする冷徹さを好演。
抑えた演技ながら、どこまでもセリフが通るところに力を感じた。
古田は、巧みに人心を操縦して王になるまでより、
王になってからの演技が光った。
特に有名な最後のセリフ「馬をもて!ほうびに国をやる!」のところ。
宮廷でいじましく女心をたらしこんでいるより、
戦場を駆け巡るリチャードのかっこいいこと!
上手の手から水がこぼれるように転落していく話ではあるが、
完全燃焼した一つの青春が、そこにある。
リチャードの死を、あっぱれと思わせるものを、古田は観客に伝えた。
11年ぶりに舞台に復帰した安田成美は、
まだ舞台カンが戻っていない。というか、一人別メニューでの練習が必要。
愛する夫とその父を殺され、
その二人の亡骸の目の前で、リチャードにくどかれるアンに扮するが、
アンがなぜ憎いリチャードの求愛を受けてしまうのか、
その解釈がまったくできていない。
解釈はしてるのかもしれないが、
泣くにしても怒るにしても、それをリアルに伝える技術がない。
感情と打算と保身の間を行ったりきたりする人間の弱さやずるさが表現されない。
だから結婚後のアンの悲哀がまったくとってつけたよう。
同じようにリチャードに「娘をくれ」と説得されるエリザベスを演じた
久世星佳を、ぜひ見習ってほしい。
久世はかつて、蜷川×市村の「リチャード三世」でアン役をやっている。
そのときは、木で鼻をくくったようなアンで食い足りなかったものの、
それでも夫を殺された貴婦人の悲しみと誇り高さとはきちんと表現していた。
今回、久世のエリザベスは、とても懐が深く、玉虫色で見事だった。
残念だったのは、藤木孝のエドワード四世にお目にかかれなかったこと。
久保さんもすごくよかったけれど、
タイトルロールも演じたことのある藤木さんの、
あのねっとりしたヘビのような演技を、見たかった。
(藤木エドワードは12月。1月は久保エドワード)
本日(昼)の舞台は、カメラが入っていたので、
いずれオンエアされる可能性あり。
ぜひ、もう一度見てみたい。
千秋楽は2月1日。チャンスのある方は、ぜひどうぞ。
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