怪談好きな夫が朝日新聞の劇評(大笹吉雄)を読んで、
「行こう、絶対に行こう!」と私を誘った「奇ッ怪」。
とはいえ、
東京・三軒茶屋の世田谷パブリックシアター隣接「シアタートラム」は
席数250にも満たない小劇場で、
すでに楽日は7/20に迫り、
チケット獲得できるか本当に心配、だったのだが、
奇跡的に「トラムシート」(最後列補助席)を得ることができ、
7/18夜の回を観に行った。
小泉八雲の「怪談」という、ベースがあるとはいえ、
脚本・演出の前川知大の力量に脱帽である。
「常識」「破られた約束」「茶碗の中」「お貞の話」「宿世の恋(牡丹燈篭)」の、
5つの怪談を
古寺を改修した旅館の客である
作家の黒澤(仲村トオル)と
田神(池田成志)・宮地(小松和重)という警察関係者の二人、
そして仲居(歌川椎子)が順番に話す。
一見「百物語」風のオムニバス劇と思いきや、
最初はまったく趣の違うものと感じられた一つひとつの話が、
実は「同じことを言っている」ように感じられてくる。
そして、それは
「100年前」の伝承ではなくて、
今そこにいる黒澤や田神や宮地に関係する話とリンクしてくる。
「茶碗の中」を宮地が語り、田神が演じつつ進んでいたところ、
「実は私が体験したことなんですよ」と宮地がぼそっとつぶやいたとき、
私は客席にいて、
「え~っ??????」と叫んでしまった。
そしたら、その「茶碗」を持っていた田神もまた
「え~っ??????」と叫ぶではないか!
もう、体ごとストーリーに吸い込まれてしまっていたワタシ。
暗闇の中で、集中力も並大抵ではない。
怖い話なのだが、3人の男たち、とりわけ池田の絶妙なチャチャの入れ方が、
ふっと笑いを誘って体の緊張を和らげてくれる。
「怪談」の持つアリエナイ系のつっこみどころを、
客観的に指摘しつつも、それでも「怪談」には真実が隠されている、
そのことを素直に信じていけるような展開が見事だ。
単なるオムニバスがどろどろとした「事件」に変わっていくきっかけは
「遺体の消失」。
ここから話は急転直下。
それまできっちりと「お話の中」と「旅館」の場面が分かれていたのが、
ないまぜになっていく。
若かりし頃の黒澤(浜田信也)とその恋人・真琴(伊勢佳世)との掛け合いが
物語にブラックホールのような底知れなさを深く掘り下げていく。
そのころには、観客の頭の中でも、
「怪談」ではなく「黒澤と宮地と田神の物語」のほうが重大関心事。
そのシフトの見事さが、この劇の真骨頂なのである。
なぜ人は、霊になっても人を恋うるのか。
せつないまでのラブストーリーが、
「怖い話」を温かくする。
仲村トオルが力量のあるところを見せる。
発声、所作の安定感もさることながら、
深刻なシーンからコメディタッチの役作りまで、
引き出しの豊富さが光る。
前述の池田・小松のほか、
歌川が第三者的な無責任さを漂わせながらすっと話に入り込む仲居を好演。
また、
「破られた約束」で前妻役となった岩本幸子の「幽霊」はものすごーくコワかった。
今日、明日の2回公演を残すのみ。
夕べは立ち見もぎっしりだった。
が、
必見の完璧な舞台である。
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