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「葬送の教室」@下北沢ザ・スズナリ

「葬送の教室」を見てきました。
「風琴工房」の舞台は初めてです。
きっかけは扉座の岡森諦さんが出演しているから。
…恥ずかしながら、スズナリも初体験という私であります…。
入り口は狭いけど、舞台はものすごく大きく感じた。
パイプ椅子だけどふかふかクッションの座布団がついていて、
とても居心地がよかったです。
数えると100席くらいしかないんだよね。
ぜいたくな劇空間を堪能してきました。
下北沢の駅からスズナリまでの道にはすてきな店がたくさんあって、
友達と一緒だったら絶対どこかに入っていたなー。残念。
いわゆる「御巣鷹」の日航機墜落事件の5年後を中心に描いたこの作品は、
難しい話もたくさん出てきます。
出てきますが、難しく感じないようにできている。それもすごい。
そして、事実を事実として淡々と並べる部分と、
今生きている遺族や関係者の胸のうちにある感情の爆発とが
舞台の緩急を見事に作り上げていました。
今、戯曲の勉強をしていることもあり、
「出はけ」つまり役者の登場と退場の仕方、
それから初出の登場人物の説明をどこでするか、に、
最近はすぐに目がいってしまいます。
あと、「セリフ」を言いながらどんな小道具を使ってどんな動作をするかも。
いわゆる「世話話」を何気なくしているようでいて、
そこにどんな伏線を潜ませているのか。
今回のお芝居では冒頭のホチキス、お茶、「腕」や「記念日」の話などが
あとからちゃんと意味を持ってくるからすごい。
無駄な動き、無駄なセリフなど一つもない、
よく練られた脚本でした。
また、
「予定調和」をもっともかき乱す主婦・久美子のエキセントリックさを
どう観客に感情移入させられるかの仕掛けも利いていたと思います。
最初は病的にさえ思えていた彼女の言動が
終盤に来てもっともまっとうにさえ感じられるようになる。
場の空気がそれだけ「日常」から「非日常」にと進化していたのだ、と
見終わってしばらく経ってわかる、ほどのスムーズさです。
それから、中盤までほとんど無機質な感じで
「僕のことは気にしないでください」と言っていた新聞記者が
写真を1枚撮る、という積極的な行動をとったときの人々のリアクション、
そして
「みなさんが写してほしい写真はどうもこれではないようです」
のひと言。
これも、天井から大きな手がにゅっと出てきたような感触があり、
ものすごく場の空気を変えました。
「遺族」=「かわいそう」という判で押したような固定概念を
一刀両断ではなく、
産毛の生えた桃の皮をいとおしみながら剥くような、
そんな心遣いと周到さと客観的視点を持ち合わせたこの戯曲は、
ときに体を貫くほどの痛みを覚えながらも、
きっと誰も本当には傷つけていない。
産毛の生えた私たちの心のひだに注意深く分け入ってきてくれて、
人が抱く感情は、「被害者」にも「加害者」にも「第三者」にもある、と
やさしくおしえてくれます。
「日航機墜落事件」は
最近では「沈まぬ太陽」、ちょっと前は「クライマーズ・ハイ」など、
何度も取り上げられる題材です。
取り上げられるたびに、関係者たちはどんな思いであるのか、
その取り上げられ方は、誰にとっての蜜の味なのか、
自分たちはそれらを見て、何を感じ何を理解していたのか。
知っているようで知らないことが多かったことにも気付かされました。
知っているような気になっていた自分にも気付かされました。
作・演出は詩森ろば。
10/6初日で10/13(水)まで11公演。
10/10夜、10/11昼にはアフタートークもあります。
休憩なしの1時間40分。いい舞台です。ぜひ。

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