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「表裏源内蛙合戦」

ずいぶん前にWOWOWでやっていたのを録画してあったのですが、
4時間という長丁場、なかなか見る機会を作れず、今に至る。
昨日夜、意を決して挑戦。
うーん。
「音楽劇」っていうのは、やっぱり「音楽」の出来不出来が左右する。
いい役者をそろえているから、
一つひとつの場面は歯切れもいいし説得力もある。
でも、
その場面をつなげる音楽が、私はどうにもダメだった。
よかったのは、
隠れキリシタン役としてはりつけにされた六坂直政が歌ったアリア。
これは心に響いた。
でも、
ほかは楽曲的にも歌唱的にも、及第レベルすれすれ、あるいは以下。
特に女性のコーラス隊の声が地声で耳障り。
曲想も単純な繰り返しが多くて曲として陳腐だ。
内容的に考えるところの多かった劇だけに、
非常に残念至極である。
平賀源内(上川隆也)にカゲのようにつきまとう
裏源内・勝村政信。
この二人の(つまり源内の心の)葛藤の場面に緊張感がある。
絶妙のタイミングで入ってくる勝村の巧者ぶりが目立つが、
さすがキャラメルボックスの往年の看板役者、
上川隆也の喜怒哀楽の振れ幅の大きさにも感心。
幼年のいたずらっ子ぶり、勢いのある青年期、晩年の狂気、
慢心も絶望も涙も、
丁寧かつ大胆な演技には、人を引きつけるものがある。
高岡早紀も好演。舞台映えのする動き、姿、そして声。
今後の舞台に期待が高まる。
豊原功補は想像以上に舞台役者として魅力的だった。
テレビや映画あるいはCMでしかお目にかかったことがないが、
演技の懐が深く、安心してみていられる。
彼がシェイクスピア作品で悪者をやるところが見たい。
六坂直政は本当に多芸だ。
さまざまな役で出ていたが、どれも印象的。
上で言及したかくれキリシタンもそうだが、
田沼意次役として政治の大局を展望するところも、
牢内の罪人としてしゃべるところも、
すべてが逸品。
絶対にはずせない脇の主柱である。
この作品のテーマは、
稀代の鬼才でありながら、
器用貧乏的な才能の消費に明け暮れ、
その真の力を生かしきれずに一生を終わらねばならなかった
平賀源内へのレクイエムである。
落ち目のコピーライターの焦りであったり、
ピークで転職しようと思い立ったものの、
会社のほうが一枚上で失業してしまうビジネスマンとか、
出世のためには同僚も落としいれ、ポリシーもドブに捨てる男とか、
今の私たちの周辺にいるあの人この人をほうふつとさせながら話は進む。
しかし蜷川は、
1960年代、70年代に井上自身の演劇が
社会に理解されなかったことへの「いらつき」こそが
この物語の核心にある、と見て演出したという。
「パンドラの鐘」(作・野田秀樹)などでも思ったことだが、
蜷川幸雄の、
作品に沈降させた意図を浮かび上がらせる才能はすごい。
作者がフィクションの中にわざと紛れさせたものを
掘り起こし、えぐり出し、手につかんで日のもとにさらす。
恐ろしい人だと思う。
なぜ、源内は失敗してしまったのか。
「オレには才能があるんだ!」
そう思うことの大切さ、そして危うさ、そして孤独を
この話はひしひしと感じさせる。

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