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「KEAN」オンエア

10月に銀河劇場に観に行った「KEAN」が、
夕べNHK教育テレビでオンエアされました。
席が遠くだった人は、
テレビでアップの俳優たちが観られて、
よかったのではないでしょうか。
私は前から2列目中央という恵まれた席だったし、
録画した日が私の観劇日と近いこともあり、
受けた印象はあまり変わりませんでした。
ただ、
やっぱり市村さんは劇場で会うべき俳優かな。
キーンの感情の起伏の激しさは、
テレビで筋を追ってしまうと、なかなか理解しにくい。
たとえば、
なんで高橋恵子(大使夫人)ぞっこんだったのに、
須藤理彩(女優志望)と結婚しようと決めるのか、とか。
劇場で見ていたときは、とてもすんなり飲み込めたんだけど、
テレビで見ると、いまひとつ唐突。
最後の最後に楽屋にやってきた大使夫人との
思い入れたっぷりのセリフの後にやってきた虚無、というのが、
テレビからはあまり伝わってこなかった。
舞台用のメイクや扮装の最中に会話をする仕掛けも、
劇場で見ていると、
ただの素顔がどんどん登場人物の顔になっていく、
そのあたりがよく映えるのだけど、
テレビのアップでは舞台用のメイクの効果より、
そのどぎつさのほうが強調されてしまい、
醜悪とは言わないが、視覚がメイクに振り回されてしまいがち。
中嶋しゅうの、穏やかで味のあるセリフも、
テレビだとちょっと地味めに。
劇場では、あのささやくような声が遠くのほうまで鮮やかに伝わっていたのに。
こうした「劇空間を共有する」という醍醐味は、
やはりテレビでは味わえないんだな、と痛感した。
ただ、
同じ劇を何度も見られるという楽しさをくれたのは、テレビの効用。
観劇後、「ヘンリー四世」を読んだので、
ラスト、皇太子(鈴木一真)が楽屋に来たときのセリフのかけあい、
「ハル王子!」(キーン)
「お前なんか知らん」(皇太子)
「どちらがうまく演じられたかな?」(皇太子)
のくだりの意味がようやくわかった。
わかったけど、
この「どちらがうまく演じられたかな?」と言うほど、
鈴木クン扮する皇太子が「演じて」ないから、
結局ツマラナイ。
鈴木一真は皇太子を演じているけれど、
ここではその皇太子が、シェイクスピア劇の中のハル王子という皇太子の役を
ちょっとした日常会話の中で演じている、という複雑さを、
観客はちっとも感じ取れないんだ。
皇太子は役者じゃないから、
キーンが楽屋や舞踏会で
オセロやリア王やロミオやハムレットや
シャイロックのセリフをつぶやく場面より、
演じ分けがもっと難しい。
いよいよ工夫がほしかった。
同様に、
最後に大使夫人がキーンにむかって言う
「さよなら、私のフォルスタッフ!」というセリフも、
わかったような、わからないような。
あの、勝ち誇ったような、見下したような言い方って、
大使夫人がハル王子のように言っているっていうことなのかしらん。
やっぱり、
高橋恵子は大使夫人をまったく理解しないまま
大仰に、ゆっくりと、もったいぶったように、
セリフを唱えていたんじゃないか、と思ってしまった。
彼女はキーンに、何をどうしてほしかったのか、
そこが見えてこない。
大使夫人にとってのキーンとの逢瀬の意味は
もっともっと重要なものだったはずなのに。
「奪って!連れていって!」と叫びながら
実はそんなことされちゃ困ると思っている。
でも、
彼からは「行きましょう、何もかも捨てて」と言われたい。
言われて満足して、その足で大使公館に戻る・・・
彼女はカゴの鳥なりに、安全を確保した上でスリルを味わいたいのだ。
その、「バーチャル・アヴァンチュール」と「リアル」の境目を
行ったり来たりするスリルが
彼女の言動からまったく感じられなかった。
単に、好きな人からは思われたい、という女の愚かさだけが目立ってしまった。
残念。
いずれにしても、難しい芝居だな~。
その難しさを感じさせず、軽妙に、笑い、笑いで綴って
ところどころにペーソスが効く…
そんなふうに、洒脱に演じてナンボの劇だと思った。

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