伯父の遺産を受け継いだ美女フランソワーズ(中越典子)が結婚した伊達男
リシャール(橋本さとし)は、ばくち好きのとんでもない遊び人で、
すでに「お前との結婚は遺産目当てだった」と公言して憚らないほど。
惚れて一緒になったとはいえ、DV男だし、もう耐えられない、と
離婚を決意するも、リシャールが簡単に「カネづる」を手放すわけもなし。
そんなときに偶然知ったのが、
今まで聞かされてこなかった彼にうり二つの弟ミシェル(橋本=二役)の存在。
このミシェルを巻き込み、
ミシェルの恋人でもある家政婦のルイーズ(堀内敬子)と組んで
フランソワーズはリシャールと離婚するための一芝居をうとうとするが、
そこは段取り道理には運ばず…という話。
ミステリーの王道を行くロベール・トマの、計算しつくされた作品だ。
ただ、
二時間ドラマでいやというほどミステリーを見させられてきた身としては、
途中でかなりなりゆきを想像できてしまう。
そこをどんでん返しに次ぐどんでん返しで切り替えしていくところが
トマらしいといえばトマらしい。
しかし、何かが足りない。
「カネ」しかないのか、この男女には。
「ミステリー」なので、ネタバレなしでレビューを書くのは難しいが、
こんなに「愛」のかけらも書かれていない話は珍しい。
人を傷つけカネを手に入れようとするのは、強盗である。
どんな知能犯であっても、強盗に感情移入するのは難しい。
犯人の側にも「しかたがない」あるいは「やるせない」思いがあって初めて
観客は犯人に心を動かされる。
そこで気付かされるのが「二時間ドラマ」の偉大さである。
「なぜ犯人は殺意を覚えたか」に、本当に長々と時間を割く。
これが通り一遍だったり類型的だったりあまりにお涙頂戴的だったりすると
だれるものだが、
そういうもの「一切なし」では日本人に「罪」を納得させるのは無理なんだ。
だからこその「過去」であり「涙」であり「崖」だったりするわけだ。
浪花節だよ人生は、っていうのは、本当なんだな~、と痛感。
愛にも虚と実があって、
その虚実が登場人物の心の中でもないまぜになっていく
その一片でも描写されていたら、
この話はもっと深いものになっていくのではないだろうか。
橋本さとしのDV男ぶりは背筋が寒くなるほど。
体も大きいし、迫力満点である。
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