これは、シナリオ作家の大御所・新井一先生の言葉。
お話が始まった時と終わった時で、
登場人物の感情が変化していることが、一番大切なのだという。
そして、
その感情の変化を見ているものが共感できれば、そのドラマは成功する。
9/21(金)から9/24(月・祝日)まで、東京築地の築地本願寺内、
築地ブディストホールで公演している「Honey & Apple ~コロ愛シアター~」を観てきた。
登場人物の「感情の変化」が心にしみわたる舞台だった。
タイトルからは内容がつかみづらいが、
コロッケ屋を一人で切り盛りする35歳の長姉・横田あやめ(真由子)を中心に、
1男3女の横田きょうだいの絆を縦糸、それぞれの恋模様を横糸にして描いた作品だ。
脚本の三輪玲子は、「歳の離れた弟妹を育てるためにがんばりすぎる長姉」という、
レトロというか、ある種「時代錯誤?」とも思える主題を、
大学受験にどれだけお金がかかるか、とか、子どもたちが芸能界にあこがれる気持ちとか、
そういった「今どき」の味付けをすることで、
まったく古さを感じさせずに料理している。
姉を頼り、愛し、でもそういう「感謝の言葉」は口に出せずに、
ケンカや憎まれ口が飛び交う「フツウ」の家庭の風景が展開する舞台は、
思わず「そうそう」と思ってしまうシーンの連続だ。
その「何でもない風景」の積み重ねの中で登場人物の性格が浮き彫りになり、
セリフの色として定着していくところが見事。
これはユニットN.A.S.の第二回公演で、
N.A.S.を立ち上げた一人・朝丘雪路やその夫津川雅彦も声の出演をしている。
主演は二人の娘である真由子。
パワフルで独断的、でも憎めないというあやめの役を、生き生きと演じている。
客演の野沢トオルが、絶妙の間合いと確かなセリフ回しで、実力のあるところを見せる。
コメディとは何か、体で知っているその演技は物語の脇をしっかり支え、観客をリラックスさせる。
加藤剛の息子(こういう言い方はされたくないかもしれないが)の夏原遼も、
出てきた瞬間「ただものではないな」という雰囲気を醸す。
男としても医療者としても申し分のない心理カウンセラー・五島の内面と豹変を、
きっちり演じていた。
「感情の変化」という意味では、五島に恋する二女・ももか役の麻風理香が出色。
看護師として働くだけで精一杯の序盤、
恋を見つけ、はちきれんばかりの幸せを体全体から匂わせる中盤、
その恋を失うまいと、般若の形相で迫るクライマックス、と
日々懸命に生きる一人の女の表情を、次々と体現して観客をひきつけた。
ミュージカル仕立てになっているわりに歌にふりまわされている感があり、
全体的には稽古不足がわかってしまうのが難点だが、
気がつくとストーリーに同化していて、涙がとまらない。
「貸金庫」の中身の秘密が、また泣かせる。
多少間延びはしているが、その分登場人物一人ひとりをきっちり描ききった佳作。
ブディストホールは客席と舞台が近いので、
こうした日常劇の魅力を引き出す力があると思った。
今日・明日の2日、あと3回。
公演初日に開店した本願寺敷地内のロハスカフェ「Cafe do Shinran」もどうぞ。
(「ロハス」なので空調なし。今日などは涼しいのでちょうどいいのでは?)
*写真は左から夏原遼(五島)、真由子(あやめ)、山崎玲子(母)
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