浦井健治、東山義久、藤岡正明、の名前に惹かれて観に行きました。
ほかに東宝ミュージカルアカデミー第一期生の石井一彰も。
さらに黄川田将也、杉浦太陽、瀧川英次が「BOYS」の面々。
コメディタッチにはしているが、非常に報われぬ、悲惨な話だった。
3年も下積みで、一度も日の目を見ない役者たちの話、というのは
見ていて本当に辛いものがある。
宝塚の物語としては、「愛と青春の宝塚」もあるが、
こちらは華やかさの裏にある物語は「陰影」であって、
あくまで「陽」の部分があるのが前提であるところが相違点かもしれない。
最後に夢か幻か、それとも現実か、
「大階段」でのレビューがあるのが救いだが、
「宝塚の大劇場をかつては目指した」元タカラジェンヌ役として、
本当の元タカラジェンヌ、それもトップをとったことのある初風諄が
やわらかいソプラノで一曲歌い上げると、
それまでの「BOYS」の「渾身」の舞台なんて吹っ飛んでしまう、この現実。
劇場の空気を、観客の目を、耳を、心をやさしく美しく撫でてくれる。
宝塚男子部が「日の目を見なかった」のは「運」や「時流」ではなく、
それが彼らの「実力」なんだ、と思わせてしまうところが
芸の真実に迫るものでもあり、罪作りなところである。
ひょっとしたら確信犯なのかも、とさえ思う。
「宝塚は、そんなあまいもんじゃないですよ」というのがこの劇のテーマなのかも。
藤岡、浦井、東山、石井、と歌える男たちをそろえながらも、
歌の見せ場はそれほど多くない。
初演から、歌の専門家以外のキャストを多く使っているので、
その前提で練られている話だからかもしれない。
(今回は三演)
BOYSの中で、唯一ダンサーとしてプロ、という役柄の東山は、
切れのある動きでセンターを任されるし、ソロの見せ場も多い。
しかし、そのすぐ脇でしなやかで大きなダンスをする
浦井と石井からも目が離せない。
東山が劇中で漏らすように、この世界は残酷だ。
見た目のインパクトや基礎が
本当にものを言うのだと痛感する。
東山は「踊りの人」である上に歌が上手い(あるいは上手くなった)ので、
活躍の幅を広げているが、
自分の世界を表現できる力はものすごく魅力的でも、
何にでも通用する踊りではない。
客演は自分に合ったものを選ぶだろうが、
彼にとって自分を自分でプロデュースできる「D☆D」が
彼の踊りのよさを遺憾なく発揮できる、絶対に必要な場であると確信した。
かたや浦井は「仮面ライダー」から始まって、
いつの間にやらミュージカルでも、ストレートプレイでも
大役をつかむようになったが、
彼の「基礎」の力には毎回驚かされるばかりだ。
今回は、バレエの技術、しなやかな身のこなしにビックリ。
長い手足や長身が、これまで以上に生きていた。
キャリアのある浦井の対称線で踊る石井も、堂々わたりあっていた。
彼にはまだ「自分」が見えていないけれど、
基礎の力、そして舞台映えは十分だ。
これからが楽しみになってきた。
宝塚をめぐる物語に、「戦争」は必ず出てくる。
エンターテインメントを追求することが、
「戦争」の対極にある以上、
その時局のなかで宝塚が自分らしくあるために
1人ひとりが悩み考え、そして生き抜いてきたことを
皆が大切に思っている証拠であると思う。
悲惨だけれど、示唆に富み、いい話である。
- 舞台
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