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NINAGAWA千の目(まなざし)・市川亀治郎x蜷川幸雄

彩の国さいたま芸術劇場の映像ホールで定期的に催されているのが
蜷川幸雄対談シリーズ「千の目(まなざし)」。
3月16日は、「NINAGAWA十二夜」で最高の麻阿を演じた歌舞伎役者の市川亀治郎さんでした。
スーツ姿で現れた亀治郎さんは、
「え? こんなにきゃしゃな人なの?」っていうくらいほっそりしていて小柄。
だからこそ女形をやれるんだな、と改めて思いました。
亀治郎さんは、自分でプロデュース公演もやっているので、
「演出家」としての視点も持っています。
打てば響く、というか、
同じ演出家同士、蜷川さんとの会話はポンポンポン!と
気持ちいいほどのスピードと広がり。
蜷川さんの司会も、
流れに任せて話しているようでいて実はものすごく計算されているのか、
たった1時間ちょっとの間にギューっと中味が凝縮された
コンデンスミルクのように濃い内容でした。
特に歌舞伎の世界のお話について
どんどん引き出してくれるので、
知らなかったことがたくさん聞けました。
4月から日生劇場で上演される「風林火山」は、
「出だしで人の心をつかむというやり方は、蜷川さんにおそわりました」という亀治郎さん、
開始早々から、いろいろな仕掛けを考えているようで、
お話を聞いていて、とっても観に行きたくなりました。
会場からの質問「テレビとお芝居の違いは?」に
「テレビは出てみてわかりましたが、あそこは『映ってナンボ』の世界。
 映ってないところでどんなに芝居をしてもダメなんだと知りました」とか。
そこから派生した次のお話がおもしろかった。
「テレビのいいところは、アップにすると細かい表情まで拾える点。
 芝居ではそうはいかないので、
 一つには、ジェスチャーもセリフも、大げさになる。
 もう一つに、『周りの反応』によって伝える、というやり方があるんです」
たとえば風林火山なら、お館が言った言葉で、周囲の武士がどんなに動揺するか、など。
「舞台は脇が大事」というのは、そういうことだったんだ、と思わずナットク。
「後ろの方の『その他大勢』だからと気を抜いた顔をしていると、
 その芝居は台無しです。
 最近の人は『息をつめる』芝居というのをやらないことが多くなった。
 人がセリフを言っている時は、周りは微動だにしてもいけない。
 観客の目をその人に釘付けにさせるためには、気を散らすことはしてはいけないんです」
そんな「ダメ」のすべてをやったのが「NINAGAWA十二夜」の麻阿だった、というから
その話も面白かったなー。
「女形」のルール
たとえば、立ち役(男性役)より前にしゃしゃり出る、とか、
人が話しているのに、そわそわ動いたり、髪を直したり、と落ち着きがない、とか。
人のセリフの間にそーっとほふく前進で舞台を横断するなんて、
もってのほかだったんですねー。
そこが可笑しくてたまらなかった、それが麻阿らしさだった、っていうことです。
「女形のすべてを壊して作った真阿が、歌舞伎の新しい女形の可能性をもたらした」
伝統に生き、伝統を受け継ぐ担い手たちは、
常に「自分らしさ」「プラスα」「時代性」を考え、工夫している。
亀治郎さんのキラキラした瞳と、
楽しそうに未来を語る口元に、
とても魅力を感じました。
ほかの歌舞伎役者さんのお話、
特に「どうやって役を学ぶか」の話など、
ものすごく面白い話が次から次へ。
このもようは、5月に出る埼玉アーツシアター通信に載るということで、
ここであまり詳しくレポできないのが残念です。
最後、蜷川さんに「会場から、質問したい人! 二人だけ」と言われて、
一瞬、しーん。
「なんだ、勇気がないなー」とか挑発されまして、
ワタクシ、質問させていただきました。
「女形の魅力は?」という問いに、
「女性はあぐらをかいても女性だけれど、
 女形はあぐらをかいたら男になってしまう。
 女形は、女性でも男性でもない、『女形』という生き物だと思っています。
 今まで女形の先輩方が作り上げてきたその『女形』を、私は生きるんです」
と答えてくださいました。
帯や髪のほつれを直す仕草など、小物を使っての表現にも工夫があるらしい。
でもそれより何より
「女らしさの本質」を追求していくのが女形である、と亀治郎さんは誇らしげに語っていらっしゃいました。
立ち役もやられる亀治郎さん。
今は「需要と供給」の関係で、不足がちな女形の出番が多いのだとか。
宝塚やバレエなどもそうですが、
人気の看板役者は男女ペアで称されるもの。
「この人の相手役はあの人」の定番カップルが、
今歌舞伎界では、あまりできていない、ということらしいです。
6月末からは、お父様の市川段四郎さんとともに
「松竹大歌舞伎」の東コース巡業が始まります。
首都圏だけでなく、北は北海道から南は兵庫、香川まで。
毎日のように場所を変えながらのほぼ毎日公演。
すごい体力です。
演目は「操り三番叟」「弁天娘女男白波」など。
自主公演にも積極的な亀治郎さん。
お金も人も、全部自分で責任を持っての自主公演では、
「やりたい演目」にこだわっているといいます。
作品研究の熱心さは、「ひととおり」を通り越し、学者肌?
役者としてのしどころの魅力と、
脚本の持つ良さとをどちらも客観的に評価できる彼の明晰な頭脳には舌を巻きます。
彼のこれからには、目が離せなくなりました。

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