WOWOWにて視聴。
意外、と言っては失礼だが、広末涼子がなかなかよかった。
妻夫木聡も、
バンリが自分の子であるか疑う父親となってから、
表情に凄味が出て演技も乗ってくる。
勝村政信は、
いつもながら芸達者。
あちこちに野田の演技を思わせる風合い。
しかし。
バランスが悪い。
字も読めず粗暴だが、マッチョな男として外見の魅力にあふれる堤真一のテムジン、
かわいさとバカさと鋭さを併せ持つ深津絵里のシルク、
そこにアタマがよく心は繊細、だけどブ男(失礼)の古田新太のケッパツ。
このトライアングルは最強だった。
古田新太の、ときに道化、ときに悪役、ときに誠実、
そしてときに純愛の僕べ、
この百面相の演技がケッパツという人物にパーフェクトな色合いをつけた。
それに比べると、
勝村は顔がよすぎた。
「とてもあの文章を書く人には思えない」という実感がわかない。
シルクが長い間、ケッパツを男として勘定してないのが不思議に思えてしまう。
傍白か会話かの境目が非常にあいまいで、
シルクがケッパツの愛に気付かないのが不自然に見える。
ケッパツというのは、本当に難しい役なんだということ、
そのケッパツを見事に演じた古田の力に
改めて恐れ入った。
テムジンの母親役も、
高畑淳子の軽妙さが高橋恵子にはなく、
そこにうらみが残る。
前と同じキャストの中では、
やはり野田秀樹がずば抜けている。
野田秀樹という男は本を書き、演出もし、
そちらのほうが有名だけれど、
役者としての技量も誰にも負けないものがある。
テムジンの子、バンリの造形は並大抵のものではない。
王者の子でありながらひ弱で、頭でっかちで、やさしくて、
でも敏感に父の憎しみを感じ取り、
しかしその父を愛そうと必死な子どもを、
本当に「こんな子いるよね」という自然さで演じる。
華奢で小柄という優位性を割り引いても、
彼はすごい。
特に、旅の空、病に倒れて書く手紙の内容を語るところでは、
時が止まり、
「キル」という話を離れて一人の孤独な少年の独白として
セリフがしみわたった。
*「キル」の概要に関しては、
1997年版の舞台評を参考にしてください。
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「キル」(妻夫木/広末版)
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